第204話 クロスステッチの魔女、楽しくお買い物をする
《魔女の夜市》には、沢山の魔女達が集まっている。色とりどりな装いに、煌びやかな装飾品。大小さまざまな石の輝きに、薬草や花のいい匂い。それらでいっぱいの《魔女の夜市》は、楽しい混沌に満ちていた。
「グレイシアお姉様! 見てください、かわいいリボンです!」
「あんまり早くに買い込み過ぎると、後悔することになるわよー」
「“早く飛ぶ翼”、この薬草の束を買いたい」
「これは染色用の葉だから、薬草とは別だ。それでもよければ買うといい」
私や“三番目の雛”が店のひとつひとつで足を止めては眺めている姿を、グレイシアお姉様と“早く飛ぶ翼”は暖かい目で眺めていた。ついはしゃいでしまっているけど、私も人間だったら“早く飛ぶ翼”のような姿になっている頃合いだというのに、つい若い娘みたいになってしまった。恥ずかしい。
小さな店の一つでまた足が止まる。そこは店主の魔女が採取してきた素材が色々と陳列してあって、私にも“三番目の雛”にも気になるものがあった。
「あ、綺麗な羽がある。“早く飛ぶ翼”、これ、外套に欲しい」
「ふむ……これならいいかもしれないね。ひとつおくれ」
艶やかな羽も買っていく二人の横で、私は綺麗な小石をいくつか選んで眺めていた。川で拾った宝石らしく、何の石かはわからないけどキラキラと光っていた。半透明の緑色の中に、小さな光が火花のように踊っている。
「その石は《妖精の寝床》だよ。妖精が気に入って石の中に宿っているから、中がこんなにキラキラ光っているんだ。安くするよ」
「くださいな!」
「またよくわからないものを買って……」
値札に書いてあったお金を払って、綺麗な石を受け取る。「ほら見て」とカバンから顔を出していたルイスやアワユキにも見せると、「綺麗ですねえ」とルイスが感心していた。
「ルイス、ちょっとこの石持っててくれる?」
「はい、わかりました」
カバンの中でほんわりと光る石をルイスの手に持たせてやると、暗く閉じた場所が苦手なルイスがほっとした顔になった。それだけでも、いいものを買えた気分になる。
「はー……楽しいわね、ここ!」
「面白い。“羽の女”達の集会はあるけれど、ここまで大きく華やかなものではないからな。“糸の女”達は数が多いから、集会ひとつやっても大掛かりになるな」
“三番目の雛”が感心したように周囲を見回しながらそう言う。そうでしょうそうでしょう、と、私は一参加者だというのに何故か誇らしくなってしまった。
「さあ、寄ってらっしゃい見てらっしゃい、かわいいお嬢さん達、あなたのお役に立つものがあるよォ――」
また誰かの呼び込みの声が耳に入る。ついつい、そっちにもつられてしまった。
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