第181話 クロスステッチの魔女、覚えのない種に戸惑う

「何かしらこれ……」


 整理をなんとかひと段落つけて、ある程度素材を整理しただけで日が落ちて来た。だから中に運び入れるのは明日することにして、《雨弾き》の魔法の布で素材たちを覆って家の中に引き上げた私は、袋の一つを抱えて秘かに途方に暮れていた。

 中身は、結晶でできた種……のようなもの。魔力のある素材なのは確かだけれど、いつどうやって採ってきたものなのか、これが何なのか、まったく思い出せない。


「マスター、どうしたんですか?」


「ちゃんと整理しないとだめね、どこで採ってきた何なのか、まったく思い出せなくて」


 春の若草のような、薄緑色の透き通った結晶。中で光が何度も反射する煌めきは、一度見たら忘れなさそうなものなのに……まったく記憶にない。買ってきたものではないことは確かだ。私のお財布事情で買えるようなものではない。親指の爪より一回り大きくて、透き通った透明の石。しかも内部で光るようなものとくれば、私の稼ぎでは小指の爪ほどの大きさでさえ無理をして買うようなものだ。私はミルドレッド様のようにぽんぽんと宝石を買えるほど、有能で裕福な魔女ではない。


「クロスステッチの魔女様、お夕食はどうされますか?」


「あ、自分で作るから大丈夫。イヴェットは何か食べる?」


「お砂糖菓子をいただけると幸いです」


 消費が多くて沢山の砂糖菓子を食べるルイスと同じくらい、結構イヴェットも砂糖菓子を欲しがるのかもしれない。アワユキは体も小さいから、あまり食べないけれど……砂糖菓子も料理も、作るのは楽しい。

 簡単に肉と野菜で汁物を作る。干し豚肉のストックを少し出してきて、適当に取り出してきた野菜と煮込む。砕いておいた岩塩で味を調え、パンを浸して食べるのだ。


「マスターって、汁物のお料理がお得意ですよね」


「癖、かなあ……もう汁物である必要も、実はそんなにないんだけどね」


「?」


 わからなくていいのよ、とルイスを撫でると、僕も少し食べてみたいですとねだられた。砂糖菓子とパンは自由に摘まめるように沢山盛って、テーブルの上に乗った三体の《ドール》達とお夕飯を食べる。イヴェットは砂糖菓子だけ、アワユキは砂糖菓子とパンを食べる中、ルイスは好奇心もあってかよく私の料理を欲しがった。


(もういつでも柔らかいパンを作れるから、スープで浸す必要って本当はないんだけれどね)


 そんなことを思いながら、テーブルの上に置いた種を見つつパンを口にする。相変わらず、これが何かさえまったく思い出せそうになかった。

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