第175話 姉弟子の魔女、妹弟子に願い事をする

「イヴェット用のベッドの用意がいるかしら」


「いえ、イヴェットはこの箱があるから問題ありません。今までもそうしておりました」


 私の妹弟子とイヴェットが会話するのを見ながら、私は少しだけ考える。この子に預けて色んな意味で平気なのか、とか、彼女の連れている《ドール》が嫉妬したら困るな、とか……彼女は名前が同じでもやっぱり違うな、とか。

 頭の中の考え事はかなりの量が渦巻いているものの、それらを表に出すことはしない。これは私の、魔女になる前から得意なことだ。そういう教育をされてきたし、そういうことができない人は消えていった。


「第一、三日預けるだけなんだから新しい家具の用意なんていらないわよ」


「ルイスの分ばかりで、アワユキにはまだルイス用の食器を流用させてるんですが」


「気になるならうちのを貸すわよ」


 客人の《ドール》をもてなすための、小さな食器の用意は複数ある。そこからいくつかを妹弟子に渡しても、困りはしないのは事実だった。たった三日預かるだけの相手のために新しく何かを用意しようとするだなんて、やっぱり私の妹弟子はお人よしだ。アワユキにあげるのも兼ねて、平皿や深鉢を二つ。イヴェット用のティーカップとソーサーをひとつ、適当に選んで《状態保存》の魔法の小箱に包んだ。


『グレイシア様!』


 もう一度そう呼ばれたりしたら傷口が開いてしまうから、お姉様と呼ばせた。反省して前より積極的に構い、小さな約束をいくつも交わした。イヴェットを預けるのだって、そのひとつ。未来への貸しを作ってるからには、その履行をしてくれると信じた。……信じたい、のだ。今のところはお人よしで、不器用で、そそっかしくて、でも愛すべき私の妹弟子のことを。


「これを貸すから、三日後にイヴェットと一緒に返してもらえばいいわよ」


「グレイシアお姉様、ありがとうございます」


 我が妹弟子の連れている《ドール》は、変わったものばかりだ。買ったばかりだと言うのに長年連れ添っている個体のように個性のはっきりした子と、今時珍しい《精霊人形》。そこに最新の試作核の《ドール》まで加わっては、この子が普通の《ドール》を普通にかわいがる日がますます遠のきそうな気がする。それでも彼女がルイスとアワユキへしっかり愛情を注いでいるのはよくわかるから、だから無理に連れて行かずイヴェットを預けることにしたのだ。


『二人目の《クロスステッチの魔女》、今度こそ堕とさないようになさい』


 古い友達の言葉を思い出しては、妹弟子へまた、約束を積み上げた。

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