第174話 クロスステッチの魔女、《ドール》のおさらいをする
「グレイシアお姉様、イヴェットは研究中の核の子だって話ですけど、それって本当に大丈夫なんですか?」
つい気になって聞いてしまったのは、《裁きの魔女》に捕まりかけて一年経っていない現状を警戒してのことだった。ルイスが違法な《ドール》である上にイヴェットも掟に引っかかるような子であったりした日には、またお師匠様に叱られて《裁きの魔女》様達にも呆れられてしまう。違法な子だったら預かってない、とはグレイシアお姉様の話だったけど、気にはなった。
「そもそも《ドール》作りのこと、あまり知らないなって思って。お師匠様は、修理の姿もあまり見せてくれませんでしたし」
「《ドール》の作業中は集中するためって言って、弟子も近づけずに部屋に籠ってるものね。私は勝手に魔法で盗み見していたことがバレて、後ですごく怒られたけれど」
そんなことしたんですかお姉様。後で怒られ……怒られてたようだけれど。何の魔法で盗み見したんだろうか、結界とか張ってあったし侵入は難しいと思うのに。
「細いリボンに《視界共有》と《浮遊》の魔法をかけて、ドアの隙間からするっと忍び込ませてみたの。それがバレて以来、結界を張られるか、直接教えてくれるようになったわ」
「お師匠様が結界張って引きこもって作業するようになったの、お姉様のせいなんですね?」
そうとも言うわね、と言いながらお姉様が紅茶を飲む。
「僕は僕達の身体が何でできているか、そういえばよく知らないです」
「あら、ルイスは興味あるの?」
「あります!」
イヴェットはその様子をじっと見ているだけだったので、「イヴェットは見たことある?」と聞いてみる。するとイヴェットは小さく首を横に振った。
「イヴェットが今のところ末子なので、作業の様子を見たことはありません。しかし、知識はある程度教えていただいております」
「《ドール》の核として人間の心のカケラを少し抜き取った後、これを門外不出の薬液で育てる。薬液の構成は人形師の師弟関係を表すものでね、弟子によってはさらに少し発展させたりしているのよ」
少し席を外したお姉様が、ガラスのフラスコ瓶を持って戻ってきた。中には薄水色の液体と、その中に浮かぶキラキラとした宝石のようなものが入っている。瓶の細長い口には刺繍を施されたリボンが結び付けられていて、何かの魔法が発動しているのがわかる。
「お姉様、この魔法は?」
「《名前封じ》よ。元の人間の名前がついてしまうと、動くときにうまくいかないことが多いの。『人間なのに《ドール》に変えられてしまった』と思い込んだり、色々と……ね」
何かとても含みのある言い方が気になったものの、「何があったんですか?」と聞いても「内緒」と言われただけだった。
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