第171話 クロスステッチの魔女、踊りを見る

 イヴェット、と名乗ったコスモオーラの《ドール》は、普通の新品の《ドール》よりも感情表現が薄いと感じた。性別がない、という特性が関係あるのかないのかわからないけれど、どう対応するのが正しいのかをよく考え込んでいるような印象を受ける。


「イヴェットは、母上様からお茶の淹れ方と簡単な剣の使い方を学びました。母上様は、イヴェットがどこに出しても恥ずかしくない、新しい核の《ドール》になられることをお望みです」


 淡々とそう言ったイヴェットのお腹が、小さくくぅと鳴った。私は、ルイスとアワユキとイヴェットの三人に魔法の砂糖菓子を渡す。とはいえ、アワユキは話に飽きたのか丸くなって眠ってしまっていた。起こすのもかわいそうだから、いつでも起きたら食べられるよう、アワユキの前にお姉様が用意してくれてた小皿へ砂糖菓子を置いておく。


「魔女様、イヴェットがいただいてもいいのですか?」


「構わないわ。あなたを壊すようなものも入れてない、つもりだし」


「いくら特殊な核とはいえ、砂糖菓子程度の魔力で壊れはしないわよ。それなら外に出さないはずだから」


 つい勧めてしまった後で大丈夫だったかしらと気にしていると、グレイシアお姉様が笑ってそう言ってくれた。私とお姉様の承認を得て、イヴェットが砂糖菓子を口に入れる。その中に含まれた魔力が浸透しても何も起きなかったことに、私はほぅと安堵のため息をついてしまった。私が壊してしまったりしたら、目も当てられない。


「クロスステッチの魔女、あなたしばらく暇?」


「え、ええ。急ぎの仕事がもらえるほどの腕前もないですし、教えてもらった攻撃魔法の練習とちょっとした依頼くらいしか予定ないです」


 そっかぁ、とお姉様は言いながら、何かを考え込んでるようだった。


「イヴェット、あなたちょっとそこで踊ってみなさい。体を動かす練習にって、あの子は《ドール》全員に踊りを教えてるでしょう」


「かしこまりました」


 イヴェットが立ち上がり、ゆっくりと踊り始める。手を伸ばし縮め、足を振り上げ、時折跳ねる。舞踏会で踊るような優雅なものではなく、私が故郷の村で見様見真似でやっていた踊りのような、素朴なものだった。元々の踊りがそういったものである、というのを勘定に入れても、上手に踊れているとは言えない。まだ体を動かすことに慣れていないのか、はっきり言って下手だった。


「もう踊りをやめていいわ。……困ったわね」


 どこまで本当に困ってるのか少しわかりにくい、頬に手を当てる仕草をしながら、お姉様はさらりと私に言った。


「クロスステッチの魔女、イヴェットを3日くらい預かってくれるかしら?」


 いいんですか、それは。

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