第170話 中古《ドール》、コスモオーラの《ドール》の様子を見る
僕は努めて明るく振る舞いながら、マスターに箱の中にある綺麗な《ドール》のことのみを話題にするようにしていた。きっと、その方がマスターも喜ばれると思ったから。二人目のクロスステッチの魔女、というのは、僕にも何かわからない。けど、足元が少しぐらつくようで怖いと思っているのかもしれない。そんなマスターを支えてあげたかった。
「マスター、マスターはコスモオーラという石を見たことあるんですか?」
「ええ。透明な水晶に薄っすら虹色がかかっているような石で、普通の水晶を魔法で加工したものらしいの。今はまだ高価なものだけど、安定して作れるようにして、私のような四等級魔女でも使えるようにするのが目標なんですって」
そう言っていたのは、マスターのお師匠様の元に来たお客さんらしい。休眠状態で眠っているその《ドール》は、なんだか不思議な印象を受ける。僕よりも幼い姿で、男の子にも女の子にも見える姿だからかもしれない。ふわふわした柔らかい布の服で、体型もかなりわかりにくくなっている。でも、それだけではなく、何かが……うまく説明できないけれど何かが、違う気がする。コスモオーラ、という特殊な名前を冠された核だからかもしれない。
「お姉様、この子とお話してみたいです」
「……そうね、そろそろ起こしてみましょうか。『起きなさい、イヴェット』」
その言葉を受けて、イヴェットという名の《ドール》が目を開く。深い青の色の目が、ぼんやりと周囲を見た。空の青よりも深い色。海の色だ、と思ったけれど、僕、海なんて見たことないのに。いつ見たのかな。マスターは見たことあるのかな。そんな風にふんわりと思う。
深い海の、濃い青色の瞳が段々焦点を結ぶ。僕も、起きた時はこうだったのだろうか。ゆっくりと起き上がって、イヴェットは一礼する。
「イヴェットはイヴェット、コスモオーラの《ドール》です。魔女様方、よろしくお願いします」
「一人称、自分の名前なのね」
「イヴェットは母上様より、男でも女でもない《ドール》として作られました。その結果、イヴェットは自分をイヴェットと呼ぶことにしております。ご不快でしたら修正します、魔女様方」
構わないわよ、とマスター達はイヴェットにそのままであることを許した。男でも女でもない《ドール》となると、どんな服を着るのだろうか。今のイヴェットは僕の寝間着としてマスターが買ってくれた服に似た、裾の長い簡素なシャツに簡単なズボンという服装だ。
「イヴェット、彼女はあなたが自分達の家の外……つまりこことかで、問題なく動いて会話できるかの練習をすることを望んでいるわ。私たちのことは聞いてる?」
「男のような服を着ている女性が、リボン刺繡の二等級魔女グレイシア様と伺っております。こちらの魔女様のことは……イヴェットは聞いておりません」
「クロスステッチの四等級魔女というの。よろしくね」
イヴェットはマスターの言葉に淡々と頷いていた。その顔はいつも通りのように見えて、マスターに後で、僕ができることをしてあげたいと思った。
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