第157話 クロスステッチの魔女、行き先を決める
行き先をどちらにするか考えている間も、私は降り注ぐチェリーの花を見ていた。先に傷の相談をしてからの方がいいだろう、と思って、カバンから取り出した庭水晶をお師匠様に繋げる。
『お師匠様、クロスステッチの魔女です。ルイスのことで相談がありまして、今からそちらに行ってもいいでしょうか?』
『おや、そんなら見せにおいで。家を壊すんじゃないよ』
さらっと刺された釘が痛い。でもここに上手に着陸できたから、大丈夫のはずだ。多分きっと。
「ルイス、アワユキ、飲んでるのが終わったらお師匠様のところに行くわよ。アワユキは初めて顔を合わせる人になるわね」
「わかりました、マスター」
「よくわかんないけど面白そう!」
二人の反応を見ながら、お茶を一口飲む。《ドール》修復師であるお師匠様がアワユキを見てどんな反応をするのか、少し楽しみだった。
お茶を終えたら片付けをする。水筒や敷物などの出していたものを全てカバンにしまい込み、箒にいつものようにお師匠様の家への《引き寄せ》のリボンを結ぼうとして、その手を止めた。ここにも上手に着陸できたんだから、このリボンなしでお師匠様の家に行けるようになったのかもしれない。
「ねえ二人とも、今回はリボンなしでいい?」
アワユキはよくわかってない顔をしていたけれど、ルイスは《引き寄せ》のリボンを結ばない私を見て理解してくれたらしい。頷いてくれた。危ないのはいけないから、アワユキの首とルイスの腰に《身の護り》の魔法のリボンを結んでおく。
「マスターなら大丈夫ですよ」
「そうね、最悪墜落しても二人は大丈夫よ」
「兄様もアワユキも飛べるよー?」
とりあえず二人をクッョンに座らせて、ゆっくりと浮き上がることにした。足が少しずつ地面から離れ、浮いていく感覚。やがて爪先に触れるのは地面に落ちた花びらではなく、まだ枝の上にあって咲きこぼれる花びらになる。爪先が揺らした枝から、ぽろぽろと花弁が零れ落ちた。
「主様ー、そのおうちって遠いのー?」
「そんなに遠くないわよ、私達のおうちの近くだもの」
風を味方につけて、箒を運んでもらいながら進む。大した距離でもなければ、天候も落ち着いているから、問題なんて起きるはずがない。そう思っていた空の道のりが少しおかしいと思ったのは、突然湧いてきた黒雲を見た時だった。
「二人とも、濡れるのは嫌だものね。少し回り道をして、」
言いかけた言葉が止まる。その雲を避けようと箒をずらした私に対して、雲は明らかについてくる動きをする。上も下も、右も左も、黒雲は風とは違う明らかな動きで対応して、回避させてくれなさそうだった。
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