第158話 クロスステッチの魔女、雲と戦う?
「あれ、明らかに魔法の雲よね……?」
作り方は知らないけど、そういう魔法があることは知っていた。一等級魔女のやるような仕事だけれど、雨雲を作って好きなように雨を降らせることができる、と。材料集めも魔法も、私なんかでは想像のつかないものだ。お師匠様もできないと言っていた。ただ、そういう魔法がこの世にはある、とだけ、私に教えてくれたのだ。
「マスター、あれ、僕達に向かってますよね?」
「雪ではなさそうー!」
「二人とも、しっかり捕まってて!」
ルイスが自分達の座っているクッション、アワユキがルイスの腰にしがみついたのを確認して、箒の柄をしっかりと握り直し、いったん止まった。雲に入っても濡れるだけかもしれないけれど、できれば振り切りたい。魔法で作った雲だなんて、降ってくるのが本物の雨ではない可能性もあるのだ。変な魔法を浴びたくはない。
カバンや手首にある、今持っている魔法を確認した。《発火》《流水》《浄水》《浮遊》《加速》……《加速》のリボンは使ってもいいかもしれない。問題の雲はそれなりに大きく、簡単には突っ切らせてくれそうになかった。《雨風除け》は二人と自分につけた。予備の《身の護り》、《石礫》《灯火》……礫の魔法以外にも、何かの対抗手段を用意しておくべきだった。反省しながら後退できないか試してみても、雲は追いかけてきていた。本当になんなのか、さっぱりわからない。水晶でお師匠様に連絡を取ろうとしたものの、今は出かけているのか気づいてくれなかった。グレイシアお姉様にも送ってみると、こちらは応答があった。
『あら、クロスステッチの魔女? どうしたの?』
「変な雲に目をつけられちゃって空の上なんです」
『本当に揉め事を招き寄せる星周りをしてるね……見せてごらん』
なんとか水晶を雲に向けると、お姉様が『魔法の雲ね、追いかけてくるってなると魔女に反応するようにしてあるのか……』と呟くのが聞こえた。
『魔法に反応して追いかけてくる魔法はあるけど、雲にそれを組み込む理由はさっぱりね……誰かに狙われる心当たりは?』
「まったくありません! 追いかけてくる雲の雨なんて浴びたくないのに!」
『手鏡はあるわよね? 《身の護り》の魔法の予備は? 片手飛行に自信は?』
唐突な質問に是を返すと、グレイシアお姉様は他にもいくつか質問をしてきた。片手飛行以外は頷く。手鏡は魔法がかかっていないけれど、多少古いものだ。そういう方がいいと言われて、意味もよくわからないまま持ち歩いていた。
『いい? 今から言うことをしっかりやるのよ。まず―――』
進むことはできない。戻ることも難しい。だから、なんとかするために動くことにした。
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