第151話 クロスステッチの魔女、お花見をする
思い立ったら吉日。ガブリエラ様とミルドレッド様と別れ、魔女組合で色々と買い物をした私はルイスやアワユキを連れてチェリーの大木に向けて出発することにした。組合で新鮮な野菜と、このまま食べられるサンドイッチを買っていく。
「ルイスの春服も欲しいところだけど……ルイス、どんなのが着たい?」
「僕はマスターが作ってくれた靴に似合うのが欲しいです」
その後何かを小さな声で呟いたようだけれど、それは聞き取れなかった。色々な少年向けの服を見てみたものの、ルイスが頷くものはない。仕方ないから、いったん今日は服を買わないことにした。そもそも《ドール》は人間や魔女と違って汗をかかないのだから、服で気にするべきは泥などの汚れだ。そこを気にしておけば、頻繁に服を着替える必要は本当はあまりない。極論、これらは魔女の趣味だ。
「主様、そのお買い物何したのー?」
「おいしいものよ、綺麗なお花を見ながら食べようと思って」
楽しそう!と肩の上でぽんぽんと跳ねるアワユキ。ルイスは「僕もお手伝いします」と言ってくれて、私はそんな二人を乗せて箒を飛ばした。春の暖かい陽気と、甘い花の香りの中を飛ぶ。普段より高度を低くするのは、それらをより堪能するためだ。
「マスター、チェリーの花糸ができたら僕の魔法糸を張り替えて欲しいです」
「本当に? 《裁きの魔女》様の魔法糸はまだ緩んでないけど……ふふ、いいわよ」
「アワユキもいい匂いの糸が欲しーい!」
「アワユキにも何か作ってあげようね」
そんな会話をしながら山に向かうと、緑色ではなく一部が薄いピンク色になっていた。
「あの山だけ、雪みたいねえ」
「あれがチェリーの木よ。あれは全部、花なの」
今日はゆっくりと安全に箒を飛ばしたから、《引き寄せ》の魔法もなく上手に飛べていた。うんうん、私の魔法も成長したね。このまま上手に箒を乗りこなし、立派な魔女になりたいものだ。
「はい、到着!」
枝を折ってしまわないように慎重に、着陸まで今日は満点。自分で自分を褒めてやりつつ、私はチェリーの木を見上げた。視界一杯に見える木はすべてチェリーの木で、いっせいに花が咲く。東の方ではそれを特に愛しているそうだけれど、こちらでは主に花が散った後の実の方を期待されていた。
「これだけ沢山の花があったら、糸は沢山作れそうですね、マスター!」
「その前にまずはご飯にしましょ」
敷布を敷いて、その上に座る。ちょっと硬いけど、地面に直で座るよりはいいだろう。バスケットを開けて、紅茶を淹れて、楽しいお茶会を始めることにした。
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