第147話 クロスステッチの魔女、楽しく雑談をする
「あなたの《ドール》、せっかく綺麗な目と顔をしているんだから、もっとキラキラしたものをつけてあげたらいいのに」
ミルドレッド様にそう言われて、「そうしたいのはやまやまなんですが……」と返す。メルチのことは何かあったら連絡すると決めれば、後は三人でそれぞれの《ドール》を見ながらの雑談になった。私も予定はないし、と腰を下ろして、ティーカップを手にする。テーブルクロスに組合の魔女がかけた魔法で、座った者の好ましいと思うお茶を出してくれるのだ。春だねえなんて話をしていたからか、チェリーの香りがついた茶葉だった。
「やっぱりその、四等級魔女のできる依頼での稼ぎではちょっと高くて。それに、似合うものを用意してあげたいと思うと迷ってしまいますし」
「どうしてその子は飛べるの?」
「私のお姉様が、他の魔女と共同で編み出した魔法だそうです。ルイスの意志で飛べると言ってました。そうよね?」
「はい。最初はちょっと大変でしたが、慣れてしまうと歩くように飛べます。便利ですよ」
ルイスが嬉しそうに言うのを、ガブリエラ様とミルドレッド様は「うちの子達にも着せたいわね」「うんうん」と楽しそうに聞いていた。
「エマに着せたら、天井の方もお掃除できると思うのよ。ねえ?」
「はい、とても役に立ちそうです。飛べるのは……そのジャケットですか?」
「そうですね。マスターの姉弟子様は少年型の《ドール》にこれを着せていたので、少女型の《ドール》用の服があるかは聞いてみないといけないと思いますが」
「俺も気になりますし、今度買いたいってその魔女様に会えたら言ってもらえませんか? 飛べたらやってみたいことも、色々あるんで」
グウィンの言葉にルイスが頷いて、私も書きつけに『グレイシアお姉様へ注文 グウィンの空飛ぶジャケット』と書いておいた。彼はルイスはガブリエラお姉様の《ドール》達より外見年齢も体格も大きいから、少し大きめのジャケットが必要になるだろう。
「私のエマにも作ってほしいのだけれど、その時にこれを使ってもらうよう依頼できないかしら?」
そう言いながらミルドレッド様が懐から出してきたのは、艶やかに煌めくひとかせの糸だった。明るい赤色の糸で、絹とも違った輝き方をしている。ミルドレッド様の二つ名は『宝石糸の魔女』。つまり、これが宝石の糸なのだろう。エマの服についている刺繍も、同じような煌めき方の糸で刺繍が施されている。
「わかりました、お姉様に連絡してみます。きっと喜びますよ」
グレイシアお姉様が忙しくなって、嬉しい悲鳴になるのかもしれない。ルイスの剣の話もあるし、やっぱり今度お姉様のところに遊びに行こうと決めた。
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