第145話 クロスステッチの魔女、メルチの裏側を聞く

 私はガブリエラ様とミルドレッド様に、メルチを預かった時の話をした。一冬面倒を見て、今は私の元を去っていることも。ドレスを作ったのも、メルチを教えたのも、転移の布も、実はミルドレッド様だと教えてくれた。世界って狭い。


「占いに従ったと言うけど、それは誰の占いによるものなの?」


「この子のお師匠様は、リボン刺繍の二等級魔女アルミラ様だよ」


「ああ、『だから』クロスステッチの四等級魔女なのね」


 謎の納得をされた様子のミルドレッド様に「だから?」と聞くと、彼女は「貴女が知らないなら、関係のない話だと思う」と思わせぶりなことだけ言ってしまわれた。ガブリエラ様に目を向けてみても、教えてくれそうに見えない。


「知らないなら、それを私達が言うのは不義理だもの。それより、その……メルチはどうやって、あなたのところに来たって?」


「あ、ええと……結婚が意に染まない無理矢理のものならこれを使え、って言う小さな布の魔法で、冬の森に飛ばされたって」


「なるほど、やっぱり転移の魔法は条件が問題ね……」


 ぶつぶつと何かをメモしているミルドレッド様の横で、これまで黙っていたエマが口を開いた。


「マスター、よかったではありませんか。この冬に結局お客様は来られませんでしたが、彼女の道は開けたようで」


「……そうね」


 もしかしてミルドレッド様、メルチが自分のところに来るかもしれないと思って用意してたのだろうか。そうだとしたら、申し訳ないことをしてしまったかもしれない。


「みーちゃん、稼ぎを消し飛ばして素寒貧な上に見習いを養おうとしてたの? みーちゃん無茶だよ、見習いの子に教えられるほど家事できないでしょ!?」


「え、エマがいるもの」


「家事ができなさすぎて独り立ちのお許しが全然出なかったみーちゃんにそれは無茶だよ……」


「なんでバラしちゃうの!」


 ああ……家事ができるようにならないと怖くて独り立ちさせられないし、大体の魔女はそもそも家事なんてしたことないような娘だからか。ミルドレッド様は特にそういう人だったらしい。《ドール》が家事をやるのはお師匠様もだけど、あの人も掃除と洗濯は自分でされるからなぁ。料理はどう頑張ってもダメだったから、《ドール》にさせてると言ってたけど。魔法でパンを作ることしかしてないはずだ。


「クロスステッチの魔女ちゃんは、ちゃんと家のことができて教えられたんでしょう? みーちゃんよりはよかったんじゃないかなぁ」


「ガブが裏切ったわぁ……」


 心なしか、ミルドレッド様の髪や目のキラキラも輝きが減っている。とはいえ気安いのがわかる関係で、同時期の姉妹弟子を持たない私としては少し羨ましかった。

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