第140話 クロスステッチの魔女、3人で空を飛ぶ

「お掃除もしたし、春のお買い物と納品もしないといけないわね。あと、アワユキの登録もしないとだし……箒に乗るから、二人ともおいで」


「はい、マスター」


「アワユキも乗せてもらうー!」


 箒に乗る前、魔女組合に行くための《引き寄せ》のリボンをかけながら、箒に花でも飾りたいなと思った。せっかくの春なのだから、そういうものを用意してもいいかもしれない。花を干して、ほんのり香りをつけながら空を飛ぶのはきっとお洒落だ。春の暖かい陽気の中で、そんなことを考えた。

 箒にクッションを敷いてルイスを乗せて、ルイスの膝にアワユキを乗せる。一応、アワユキが飛んで行ってしまわないように繋いでいたリボンを、ルイスに結び付けた。


「ルイスはお兄ちゃんとして、アワユキが飛んで行ってしまわないように見ているんだよ」


「わかりました」


「アワユキもいい子にしてるー!」


 うんうん、と二人の頭を撫でてから、今日はアワユキに景色を見せるためにもゆっくり魔力を通して空に舞い上がった。春で暖かくなったものの、空の上……木よりも上になると少しだけひんやりとしている。まだこの辺りには、冬の名残があるのだ。


「主様は精霊じゃないのに、お空を飛べてすごいねえ」


「そこはほら、魔女だからね。空を飛べるのは基本のキだよ」


 古い魔女はザルだの熊手だのでも飛べるというけれど、今の魔女は基本的に箒だ。なんで箒になったのかは知らないけれど、ザルの上だとうまく座りにくいのかもしれない。リボンをつけるところもないし。《裁きの魔女》達は服で飛ぶし、特別な軟膏で飛ぶ魔女の伝説もある。その製法はもう失われてしまっているけれど、今の魔女達の中には再現しようと頑張る人もいるのだ。


「お空、気持ちいいねー主様ー。好きー?」


「私も好きよー。ルイスは?」


「僕も好きです」


 ゆっくりと風を浴びて、足のつま先が木の枝に触れそうになったからさらに上へと上がっていく。太陽の光が冷えた空気を温めて、心地が良かった。

 振り返って私の顔を見たルイスの姿が、太陽の光と相まって綺麗だった。元々、綺麗な顔立ちの子なのだ。どうして前の持ち主はこの子を手放してしまったんだろう、こんなにいい子なのに。特殊な核で人の命を奪って生まれたような子であっても、この子は私のかわいい《ドール》であることに変わりない。


「ルイス、アワユキ、魔女組合に行ったらお買い物もするけど、二人にも何か買ってあげるからね。何が欲しいか、考えておいてね」


 はあい、と頷いた二人が悩み出したのがかわいくて、少し回り道をして飛んでいくことにした。

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