第141話 クロスステッチの魔女、魔女組合で注目される
「こんにちはー。クロスステッチの四等級魔女ですー」
魔女組合に入ると、私の肩に乗っているアワユキへ皆の視線が集まったのを感じた。春の再会を喜ぶ人もいれば、漏れ聞こえる話からして元々冬に籠ったりもせず動き回っていたらしい声も聞こえる。そのざわめきの中に「精霊人形……」「あの子、四等級でしょ?」などといった私にまつわる内容も混ざっていた。
「クロスステッチの四等級魔女、その《ドール》の登録は?」
「あ、まだなんです。今日はそれも要件の一つで」
「ではこちらを書いてください」
ルイスの時と同じような書類を書くけれど、アワユキは少し中身の仕組みが違うから質問をしながら書かなくてはならなかった。なんとか埋めて提出した時、ついでに冬の前に受けていた依頼の品も納品する。両方を確認してもらい、問題なしと判断されて……晴れて、アワユキは正式にうちの子になった。
「今時、お金を出せば《ドール》は買えるし組み換えも効くからね。そういうことが難しいぬいぐるみ型の《精霊人形》の新しい持ち主となると、しばらくは注目されるかもしれないわ」
「うわあ……」
そんな会話をしてたら、メルチのことを言うのは少し後にしてもいいかな……なんて、半ば現実逃避のように思ってしまった。ひそひそ話の対象にされているのは、中途半端に気になってしまってあまり好きではない。魔女組合で買い物をするのは好きだし、人と話すのが苦になったりもしないのだけれど、ひそひそ話だけはどうにも慣れなかった。
「クロスステッチの四等級魔女ちゃん、今受付にいるわよ……っと」
「なんですか今誰に私のことを伝えたんです!?」
「マスター、人気者です?」
買い物をして仕事を受けたらどうしようか、と考えていたら、受付の魔女が蝶の形に切り抜かれた紙に言葉を吹き込んで飛ばしていた。ごく近距離で連絡を取るための魔法の蝶で、誰かに私が来ていることを伝えたらしい。
「あなたを知ってるっていう魔女から、もし来たら連絡取りたいって言われてたのよ。水晶をわざわざ鳴らすほどではないからって言ってたけど、まだこの建物にはいるはずだわ」
長く生きた魔女には、気の長い人も多い。そうでなければ、歳を取らないで生きる時間に耐えられないという説もある。そういう魔女の中にはたまに、こういった伝言ゲームをする人もいた。手間が二度も三度もかかり、用件が果たされるのがいつになるか不明瞭でも、それはそれで構わない時のやり方だ。それでは困る魔女や、どうしても話をしたい魔女が、水晶で連絡を取る魔法を作り上げたと習った。
「あ、いたいた! ちょうどいてくれてよかったー」
私に会いたがっていたと言う彼女の声と共に、アワユキが乗っていない方の肩をがしっと掴まれた。
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