第126話 クロスステッチの魔女、ぬいぐるみ作りを始める

 水粘土でアワユキの完成予想図を作り当人から了承を得たところで、型紙を作り始めた。ナイフを入れて粘土をいくつかの塊に切り分け、作りたい予定の部品の形にバラバラにする。ルイスにも見えるところでやるのは初めてだから、三人とも興味津々といった様子で私の手元を見つめていた。ちょっと緊張する。


「姉様、お洋服を作る時は紙でこう……人形に型を取っているのを、見たことあるんですが」


「紙は高いじゃない」


 メルチの言い分もわかる。お金のある魔女や人間なら、使うのは薄手の羊皮紙だ。歯車細工の四等級魔女が持っていたような薄い写し紙なんて、世に出回った日にはあっという間に世の中の需要を攫って行くだろう。見やすいし、こういう時に役に立つだろうから。でも、私は紙をそういう形で使うのが勿体ないと思ってしまう魔女なので、代わりの手を使う。


「だから、代わりに……よく捏ねて叩いて薄く伸ばした、雲樹の葉。これを広げて、水粘土に張り付ける。そうすると葉は水の形に濡れるから、濡れた部分を完成線にして、縫い代を取って少し大きめに線を引く。完成線は完成線で、これも線を引いておく」


「おおー」


「革をこの通りに切って、縫い代のところを縫い合わせて、中身を詰めたり爪や角や目をつけてあげてアワユキの身体ができるの」


 簡単に説明はしているが、言うほど簡単な話ではない。今回は魔法の素材ばかり集めているから、魔銀の針と鋏でなければそもそも切って縫うのも難しいのだ。だからこそ、普通の針と鋏を用意せず、お師匠様は私に高価な魔銀のお道具を買ってくれたのだ。元々、金銭感覚が私より広い人なのもあるけれど……「魔銀は鉄を兼ねるが、鉄は魔銀を兼ねないんだよ」と言っていたものだっけ。


「こういう素材を扱えるのは、魔女様達の専売特許ですよね。ごく力の弱いものなら人間でも使えますけど、そもそも鋏や針が通らないとも聞きますし。私の……友達の仕立て屋も、魔女が扱う魔法素材はいつか使ってみたいと言っていました」


「マスター、そうなんですか?」


「ええ、そうね。自分自身の魔力が使えないといけないものがあるのよ。魔兎だって、毛皮として鞣しができてもその後の加工は魔女しかできないのよね。人間にできることだと、鞣した毛皮を布団にするくらいしかできないから」


「じゃあ、僕はマスターにこうしてアワユキの身体を作ってもらえるのは、マスターが魔女だからなんですね」


 そうよ、と言いながらメルチがルイスに頷いている。一通り型紙を作ったところで、突然ドアが開けられた。

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