第127話 クロスステッチの魔女、お師匠様の知恵を借りる

「クロスステッチの四等級魔女、遊びに来たわよ」


 そう言って現れたのは、お師匠様だった。今日は《ドール》達は連れていなくて、一人だった。お師匠様は上等な灰色の毛皮の外套を脱いで、外套掛けにかける。メルチが「姉様のお知り合いですか?」と聞いてきたので、「私のお師匠様、リボン刺繍の二等級魔女アルミラよ」と簡単にお師匠様のことを紹介した。


「あんたが、うちのクロスステッチの四等級魔女が拾ってきたメルチね」


「はい。今は姉様……クロスステッチの魔女様に言われて、メルチと名乗っています。姉様に教わって、お料理とかもできるようになりました」


「あら、魔法はまだ教えてないの?」


 まだ少しだけですね、と言いながら、お師匠様に椅子を勧める。メルチが横でお茶を用意してくれていて、出してくれた。うんうん、弟子って感じでいい。


「メルチは、あくまでメルチです。助けを求めて一時的に魔女の庇護を求めているわけですから、魔女の適性があるかは別ですし」


「それはそうね……あら、美味しい。淹れ方はあなたのを継いだのね」


「お恥ずかしながら、その、姉様に教えてもらうまでこういうのは全くしたことがなくて……」


「魔女なら珍しい話じゃないわね」


 そんな話をしているお師匠様の元へ、干し果物のお茶請けを出す。大事に取っておいた、とっておきのひとつだ。色々拾いに行った時に追加も見つけたけれど、あっちはまだ干しきれていない。


『主様―、これなーに?』


 甘い匂いにつられて、アワユキがぽんと机の上に載ってきた。お師匠様の目がアワユキを見つめ、齧りかけていた干し林檎の欠片を落としかける。


「クロスステッチの四等級魔女! あんた、精霊人形を作っただなんて報告してなかったじゃないか!」


「しましたよ! メルチを拾った時にしました!」


 お師匠様は頭を抱えて、何かをぶつぶつと呟いている。しばらくそうしていたかと思うと、「これ体は仮のものだろう。ちゃんとした体はどうするんだい」と聞いてきた。


「こういうのを作る予定です」


 と、水粘土に《幻影》の魔法を重ねたものをささっと用意した。型を取った後、完成形を見ながら作れるようにもう一度組んだのだ。お師匠様は雪竜を模した姿をよく見て、触りながら、「ここは何を使うつもりだい」と素材について質問してきた。


「毛皮は魔兎の毛皮、角と爪は薄紫の茸水晶、それから……」


 と、ひとつひとつの素材に何を使ってどう作るつもりか、型も見せながら説明する。


「魔兎の毛皮は、僕が仕留めたんですよ!」


 ルイスは嬉しそうにそう補足を入れていた。

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