第125話 クロスステッチの魔女、完成図を固める

 家に帰ってきて、メルチのスープを飲んで、眠って。翌日から、アワユキの身体を作るための仕事にとりかかった。


「マスター、何をするんですか?」


「姉様、私も手伝いたいです」


「もちろんこき使うから、そのつもりでね。アワユキにはいったん仮の身体を作って、それを型紙にする予定だから……こういう体でいいか、出来上がったら見て欲しいわ」


『はーい、主様』


まずは魔法の材料を貯め込んだ棚の中から、半透明の水粘土を取り出す。水の魔力をたっぷりと含んでいて、水が固形化したような魔法の粘土だ。川辺で採った時から枯れないように水をかけてきていたが、寒い冬の空気で凍り付きかけていたのをしばらく暖炉で温める。柔らかくしておかないと、これからの用途に使えないから。


「これ、何に使うんです?」


 ムニムニと柔らかい感触を楽しんでいるルイスとメルチの様子を微笑ましく見ながら、私はその間に他の物を用意した。雪竜の図鑑の絵に、魔兎の毛皮、青空胡桃の中身、今回採取してきた諸々の素材たち。


「水粘土はこうやって伸ばしたりできるから、これで大雑把にアワユキの身体を作ってみてー……それに合わせて、毛皮を切ったりするの」


 二人が触っていた水粘土をそう言いながら伸ばすと、二人は「「おおー」」と感嘆の声を上げた。結構仲がいいのか、見ていてこういうところは微笑ましい。


「雪竜の身体に似せて、かつ、魔兎のこの毛皮のサイズに合わせるならー……これくらいかな?」


 水粘土をよくよくこねて、必要そうな大きさの分を切り出す。残りは二人に貸してやって、「好きに使ってみていいわよ」と言った。楽しそうに私の真似をして粘土をこねている二人を見つつ、私の方は図鑑の絵を見ながら雪竜の身体を作っていく。細長い体を作った後で、毛皮をあてがって大きさを確認。毛皮の大半を使ってうまく作れそうな大きさになったので、《水幻影》の刺繍を刺していた布をかけて魔力を通し、私の頭の中にある像を水粘土の上に投影させる。水粘土が立体物を作る時の魔女に愛されている理由は、《水幻影》と組み合わせて魔女の想像を水粘土の上に投影させ、出来上がったものの像を触れるように出してくれるからだ。ルイスの靴を作った時も、重宝した。


「アワユキ、こんな感じの身体はどうかしら」


 ふわふわの白い毛皮に、紫の瞳。茸水晶の薄紫の角と、かわいいかぎ爪。尻尾の先端も薄紫に染めて、額には金の模様と魔石代わりの石。私の手のひらよりは大き目で、飛べる予定だ。アワユキはその姿を見て、『かわいい! お願いします、主様!』とはしゃいでいた。

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