第122話 クロスステッチの魔女、占ったものを手に入れる

 ルイス、アワユキ、メルチの三人を連れて、私はさっき自分のリボンを結んだ石の元に連れて行く。アワユキに使うつもりだった素材だから、アワユキ本人がお気に召すかも確認したかった。もし気に入らなくても、それはそれで採取はするつもりだけれど。


「どうかしら、アワユキ? 上等な茸水晶だから、多分、根っこの欠片を使うと少しずつ伸びたりするツノが作れると思うの。それに、色も綺麗な紫色だわ」


 先端の方を使えば伸びることはないけれど、根元には石でありながら植物の力があり、うまく加工したらそこからまた伸ばすことができる。魔女の中には好きな色の茸水晶を採取すると、長い時間の中で好きなように伸ばして手入れをする人もいる。箱庭で有用な植物を育てるのとは別で、ほぼ趣味の範疇だ……とは、オクタヴィアお姉様の台詞だったはずた。


『とっても素敵ー! 綺麗ー! アワユキ、これをツノにしたい!』


「本物の紫水晶とかの宝石にするのかと思ってました」


「僕もです」


 気に入った様子のアワユキのために、木に謝ってから根元を木の皮ごと剥がす。木を枯らしてしまわないよう、出来てしまった穴に魔法の包帯を少し切って埋めた。他にも茸水晶の小さいものが生えているから、それらも枯らしたくない。ルイスとメルチには「アワユキの目には使ってもいいかもね」と彼らの案を受け入れながら、包帯に魔力を通して《傷塞ぎ》の魔法を発動させた。


「占いに出ていたモノって、これのことですかね?」


「かも。紫……というか、混ざり色の茸水晶は珍しいの。この石は紫だけど、お姉様の中には緑の茸水晶を探してる人もいたわ」


 茸水晶のことはあまり考えていなかったのも、紫色の茸水晶があると思わなかったからだった。小さな欠片であったとしても、珍しい色の石というのは魔女の中でも人間の中でも高価なのだ。自力で採れるとは思わなかったから、茸水晶に合わせて頭の中でアワユキの体を作るのに必要なものを洗い直す。珍しいものが手に入ってツノにするのだから、それに相応しいものにしたかった。


『あ、主様見てー! ここ!』


 茸水晶をしげしげと観察していたら、アワユキに声をかけられてそちらに意識を向ける。見るとアワユキが雪兎の体と低い視点で何かを見つけたらしく、私の方へ見て欲しいと跳ねて主張をしていた。


「あら、何か見つけたの?」


『アワユキのお目目、これがいい!』


 言われるままに雪の中に手を入れ、サラサラとした手触りの中にアワユキの言う物がないかを探す。しばらくして手に触れたそれを掘り出し、雪を払った。

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