第121話 クロスステッチの魔女、森の中を楽しむ

 天気も良く、風もないから、今日は材料採取が捗った。まだ占いに探してもらっていたような「アワユキ用の何かとても素敵なもの」は見つからないけれど、それ以外でも十分だ。食べられるものも、魔法の材料になるものも、結構ある。とはいえ採りすぎてはいけないし、私の後ろにいる三人の勉強にもなってほしいから、私自身のカバンにはそこまで沢山は増えていない。他の魔女は意外とこの辺りには来ていなかったようで、手つかず……ではないものの、かなりいろいろなものが残っていた。森の中に人間が手入れのために作っていた道を歩いているだけでも、使える物が見つかる。


「……あ、こっちに何かありそうな気がする」


 こういう時の直感は馬鹿にならないし、最悪迷っても箒で飛んで森を上に抜けてしまえばいい。そう思いながら、ルイスとメルチ、アワユキがキノコの群生地であれこれ話している様子を見て少しだけその視界から離れた。あのキノコは齧ったとしても毒はない。雪目を気を付けるべきだとは思っているから、ついでに雪目防止の魔法の眼鏡の用意をしておこう。


 そう思いながら雪の森の中を歩くと、視界の中に雪とは違った光るものを感じた。道を外れて茂みの奥に歩いていき、その光るものへと近寄る。それは、大きな木の根元で伸びている大きな結晶だった。薄い紫色で、透き通っていて、内側から魔力でぼんやりと光っている。大きいものは私の手のひらよりも大きくて、アワユキに必要な素材分を削り出しても充分余裕がありそうだった。雪を少し払いのけてみると、小さな結晶も横にいくつか生えている。大きい方を採っても問題ないだろう、と思って、私は結晶の根元に私自身の魔力を籠めただけのリボンを結び付けた。せっかくだから三人を呼んで来ようと思ったのだ。自分の魔力のある方へ辿っていくのは、あまり難しい話でもない。何せ、自分自身の魔力なのだから。


「ルイス、アワユキ、メルチ。占いで言ってた『いいもの』が見つかったから、採るのを見せようと思うんだけど来てくれる? まだ、結晶のもぎ取り方は教えてなかったものね。そっちは何かいいのあった?」


 私が三人の方に戻っていくと、ルイスとメルチのポシェットは結構膨らんでいた。少しだけ蓋を開けて見せてもらうと、シチューにするとおいしい雪中キノコや、透き通った結晶樹の葉、サザレ冬石の欠片などが見える。ちゃんと私がわざと採らないでいたものを採っていってくれたようで、嬉しかった。


「前にマスターが仰っていたから、僕達、ちゃんと全部は採らないようにしたんですよ」


 そう誇らしげに言うルイス達の顔を見て、私の習ったことを人に教えられるというのは得難いことなのだと思った。だからきっと、魔女は弟子を取るのだ。

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