第112話 クロスステッチの魔女、魔女について教える

 メルチが家に転がり込んで来て、しばらく。寒さが魔女の肌にも沁みるようになってきたので、暖炉は常につけっぱなし。アワユキの雪兎の身体には解けないよう、《状態保存》の魔法のリボンを巻くようになってきていた。今までは縦のものを横にもしないような暮らしだったろうメルチに、「自分のことは自分でする」が身についてきた頃のことだった。


「姉様、私、魔女のことが知りたいです」


 そう言ってきた彼女に乞われて、私はかりそめの師として彼女に魔女について教えることにした。家のこともひと段落させた後で、私はその申し出を受けることにする。


「僕も聞いていいですか?」


『アワユキもー!』


「いいわよ。でもちゃんと教えられるか心配だし、わかりにくかったら言ってね」


 はあい、と三者三様のお返事を聞いて、机の上にルイスとアワユキを座らせ、メルチには私のペンと持っていた羊皮紙の切れ端をあげた。白紙の本の用意はないから、申し訳ないけどこれを使っててほしい。歯車細工の魔女からもらった紙の一部も、書き取りには必要かと思って一応渡しておいた。彼女は普通に受け取ったから、慣れているのだろうか。絶対私より綺麗な字を書きそうだとは思っている。


「まず、魔女とは何か。えぇと、メルチの知ってる知識を聞きたいわ」


「わかりました。魔女とは、年を取ることなく、いつまでも若く美しく、お裁縫や編み物で魔法をかける不思議の人達です。箒で空を飛んで、あと、ガラスのペンダントを必ずつけているって」


「魔法は見たことある?」


「作ってもらったドレスと、その中にあった転移の布以外はないです。父は魔法の品を持っていたようですが、見せてもらえませんでした」


 ふむふむ、と言いながら、私はなるべく綺麗な字で木板に白石で「魔女とは」と題を書く。『年を取らない』『お裁縫で魔法をかける』『ガラスのペンダントをしている』と彼女の話から要素を書き出した。


「『お裁縫で魔法をかける』、『ガラスのペンダントをしている』、この二つは大体正解よ。なんで大体かって言うと、世の中にはそれ以外で魔法をかけられる魔女がいるから。少しだけどね。そういう魔女達はペンダントもしてないの。あと、『年を取らない』は違う。厳密には、『魔力の器が完成した時点から年を取らなくなる』の。すべての魔女が、若い娘の姿をしているわけではない。私も、お師匠様の元に弟子入りしてから成長が止まるまで、五年か十年くらいはかかっているわ」


 一生懸命にメルチが私の言ったことの聞き取りを書いている。私自身は当時、字を書くか聞くかのどっちかしかできなかったなあ、と弟子入り当初を懐かしく思いながらその姿を見ていた。

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