第91話 クロスステッチの魔女、色々と干す

 期せずして魔兎を狩って、夕飯は兎肉の半分を入れた豪華なシチューになった。食べられる内臓もおいしく焼いて食べた。ルイスは肝臓とかを「それ食べられるんですか…?」と言っていたけれど、魔力袋を少し食べさせてやると気に入ってくれた。これはいいことだ……魔女の砂糖菓子の次に、魔力の吸収効率がいい。それに、狩った者として食べるのは礼儀だろう。

 そして翌朝、祈りが通じて天気は良かった。抜けるような青空、雲の少ない晴天、つまり絶好のお洗濯やその他干すもの作りに最適。


「よく晴れましたね、マスター!」


「そうね、おかげで色々とやれそうよ。さ、今日は日があるうちにやりたいことが沢山あるからね!」


 服の洗濯と一緒に、肉を外しておいた魔兎の骨や内蔵、眼球、腱をよく洗う。《洗浄》の魔法の刺繍と流水の二つで、ぴかぴかにするのだ。

昨日食べなかった内臓は、よく干して水を通さない袋にするのだ。あまり量は入らないが、粉類を入れるとすればこれで問題なかった。綺麗にしたら、家の前に大きな染めていない布を広げて、魔兎だったモノを並べる。夏のようにカラッとはいかないけれど、天日干しだ。


「マスター、お服を全部物干しにかけてきました」


「重くなかった? 今日はお天気がいいから、お布団も干しちゃいましょうか」


 空を飛べるルイスが服を並べてきたところで、それぞれの布団も魔兎の隣に並べて天日干し。お日さまの匂いと力を吸って、ふかふかになってくれることを期待した。


「マスター、毛皮はどうするんですか?」


「これも魔法で《洗浄》して、そこから……んー、人間だった頃だと液に漬けて何日か置いておくのだけれど」


 魔法で短縮できたら、今日まとめて干せるのだけれど。いきなりやって失敗したら、ルイスにも魔兎にも申し訳ないので、覚えている手順で普通にやることにした。《洗浄》魔法で、細かな肉片や汚れを落とし、火山石の粉を溶かした液につけた。人間だった頃だと山で拾えた石を、改めて買うのは奇妙な感覚だけど、そろそろ慣れなくては。


「で、ルイスにこれからちょっとした使命があります」


「使命。なんですか? マスター」


「兎皮の火山石漬けがちゃんとできるように、毎日最低でも一回はこの鍋をかき混ぜて欲しいの。少し重いけど、やれる?」


「やれます!」


 意気揚々と返事したルイスに皮を任せ、小さく切った兎肉の残りは軒先の影の中に干した。うまく風で乾いてくれれば、冬に使える保存食になる。鳥に狙われないよう、目隠しの網を張ったりするのは、なんだか昔のようで懐かしかった。今度の目隠し網は魔法を縫い込んであるけれど。

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