第77話 クロスステッチの魔女、交換こをする
「へー、本当にこっちじゃ、羊皮紙しかないんやねぇ」
「南方では草から紙を作るらしいと聞いた時は何の冗談かと思ってたけど、あれ、本当だったのね……」
「世界って広いですねぇ」
しばらくの頓珍漢なやりとりをした後、お互いの勘違いしていた点がわかれば後は早かった。薄く、そして軽い写し紙を慌てて返して、今度は歯車細工の魔女が書き物に使ってるという帳面を触らせてもらう。それなりの枚数の紙を綴じているというのに、驚くほどに軽かった。
「草から紙を作るって、これ、耐久性とか大丈夫なの?」
「破れてはしまうんやけど、多分、あんたが思っとるよりは丈夫やで」
歯車細工の魔女の出身地である南方、それから東方では、川辺に生える草を使って紙を作る技術が発展しているらしい。元が草なものだから入手も容易で、少なくともこちらの紙(彼女は私の持っていた紙を「羊皮紙」と言った)よりは高くない、そうだ。
「これは一番普通の紙やしね。料紙……お高い素材で作った紙は、むっちゃお高い」
「ああ、そういうところは変わらないのね……」
私が持っていた白紙の本のページの手触りを、歯車細工の魔女は楽しんでいるようだった。全然違うわぁ、なんて言いながら、彼女はしばらくページを触っていた。その後、傾きかけてきた日にちらりと視線をやってから彼女は「これあげるわ」と私に何かを手渡してきた。
「これは?」
「新品の雑記帳。安い紙を綴じてるだけやし、大したもんやないけど……そんなに面白がってくれるんなら、使ったってーな」
そんな嬉しいことを言われたら、こちらとしても何かを返さないわけにはいかない。というわけで、私はいつもカバンに入れてる書き付け用の羊皮紙の切れ端をいくつか出してきた。
「紙……羊皮紙って、羊や仔牛の革を四角く切り抜くから、こういう余りが出てしまうモノなの。多分、このもらった雑記帳と同じような使い方がめきそうだから、あげるわ」
「お、ええの? こういうのから初めて見たかったけど、どう人に頼んだらええかわからんくて困っとったん」
「じゃあ、今度いいお店教えてあげる……そろそろ戻らないと、日が暮れそうだしね」
くだらない話だの、洞窟への小さな冒険だのをしていたら、いつの間にか日が傾いていた。そろそろ帰らないと、真面目に箒で事故を起こす自信がある、と思ってしまう自分が悲しいけれど、《猫の目》の魔法はまだ教わっていなかった。
「《魔女の夜市》みたいに、いつも夜が明るかったらええのにねぇ」
「それはそれで、夜に寝られなさそうね……じゃあ、また」
「うん、また遊んでーや」
それぞれの《ドール》も手を振り合って別れる姿が、大変に可愛いと思いながら。私は友達と別れ、家に向けて箒を《引き寄せ》させるのであった。
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