第67話 クロスステッチの魔女、作りたい物を考える

「私も、ルイスに何か作ってあげたいなあ」


 私がそう呟きながらお茶を飲むと、歯車細工の魔女は「作ってあげとらんの?」と不思議そうに言った。私が作ってあげたのは、小さな巾着程度。もっとしっかりしたものをあげたい、という想いが、歯車細工の魔女の作品を嬉しそうに自分の瞳にしたアウローラを見ていて膨らんできた。


「僕はマスターにお名前をいただいてるだけでも嬉しいです。それに、僕はいつもマスターのお砂糖菓子をいただいておりますし」


「それは、あなたドールの生存にとって必要なものを渡しているだけだもの。うーん、私に作れる範囲で、ルイスの役に立つもの……」


 あ、と一個思いついたものがあった。材料を採りに行く必要はあるけれど、きっとあの子の役に立つ。アウローラに笑顔の作り方を教えているような、優しい子なのだから。《ドール》のサイズに合わせて作ると面積は減るけれど、その分細かい刺繍を刺せばいい。


「何か、思いついたん?」


「うん。作るためには色々集めないといけないけど……秋だから、ちょっとそこまで飛んだら見つかるはず」


「刺繍やと、糸を紡いだり染めたりもするん?」


 細工の一門がどのような修行をするか想像つかないように、彼女も私たちがどのように魔法の刺繍を刺すのかわからないようだった。少し面白くなって、説明できる範囲のさわりは教えてあげることにする。


「まあ、自分でできるようになれーってお師匠様に仕込まれたね。でも、量が必要な時とか、細さや質が自分では作れないものだったら、それはもう買っちゃうかなあ。ほら、私、まだ四等級だから、使っちゃいけないものとか沢山あるし。そっちも、そうでしょう?」


「そうやねえ。早いトコ三等級に上がって、扱ってみたい素材も色々あるんやけどねー。あ、うちも石拾いに行かな。使っちゃった分、樹脂も増やしておかんと」


 あれ、と私は小さく呟いていた。そうか、歯車細工の魔女だと集めるものがそうなるのか。もしかして、と思って私は提案する。


「西の山にある、大きいチェリーの樹が生えてるあたりに行こうと思ってたんだけど、来る? 川の方に行けば石とかもあったし、樹脂も採れそうな樹は探せばあるだろうし」


 あまり危ないことも起きない、長閑な山だった。だから、四等級魔女達だけでも入っていいと言われている場所のひとつになる。魔物が出たという話もない。


「あー、あの遺跡山? そうやな、食べ過ぎてもーたし腹ごなしも兼ねて一緒に行こか。うちもこの後ヒマやし」


 確かに、山の一角には廃墟のような遺跡のようなものがある。昔あった、街の名残のようなものだった。歯車細工の魔女には、あちらの方がいいのかもしれない。


「マスター、どこか行くんですか?」


「材料採りよ」


 二人でそれぞれにお金を支払って店を出た私達は、善は急げとそのまま山に行くことにした。

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