第66話 中古《ドール》、自分の異なる点を知る
「アウローラ、どう?」
「はい、視界に問題はありません。ありがとうございます、マスター」
アウローラ、と名乗った《ドール》は、僕から見ると不思議な《ドール》だった。嬉しそうな感情は伝わってくるのに、彼女の表情や声色にはあまりその色が乗らない。魔法糸に故障でもあったのか、決定的な断絶。
「不思議な子。本当はもっと嬉しいのでしょう?」
気づいたら、声に漏れていた。アウローラの首が少し傾き、彼女のマスターである歯車細工の魔女様が笑った。僕のマスターのご様子は、と確認してみると、彼女も微笑ましいものを見るような顔で僕を見る。
「アウローラは、まだ名前をもろうたばかりの子やからなぁ。起きてすぐやし、これから感情の表現を身につけるんよ」
「ルイスが今まで会ったことのある《ドール》は、みんな動くようになってから何年も何十年も経っているからね。心の動きや、それをどう体に現すかは、結構みんなわかってるのよ」
なるほど、と思ったところで、少し不思議になる。僕は僕が思ったことをどう顔や手足に伝わらせられるか、あんまり苦労した記憶はなかった。
「マスター、それなら僕は……」
「ルイスは《名前消し》で前のマスターや名前の記憶を消されているけれど、核そのものは変わっていないからね。だから、『思った心をどう表に表すか』は、前の経験が残っているんだと思うの」
僕はその言葉を、信じることにした。僕のマスターがそう言ったんだもの、信じない理由がない。前のマスターとか、前の僕の名前とか、そう言ったものは一欠片も思い出せないし、思い出したいとも思わなかった。
今の『僕』の名前は『ルイス』で、僕のマスターはこの、色々魔法で失敗してしまうクロスステッチの四等級魔女だ。新しい《ドール》だって買えるのに、前のマスターが残したというタトゥーが入った僕を買ってくれて、あちこちを直してくれたマスター。彼女が、今の僕のすべてだから、彼女の言うことは信じるべきことなのだ。
「アウローラも、これからうちらを見て感情や表現を学ぶんやで」
「その子は、どんな核の子なの?」
「
「そうそう、
マスター達がまた話し出した様子を見ながら、僕はアウローラにコソコソっと話しかけた。彼女の前でわかりやすいニコニコとした笑顔を作って、僕は彼女に言う。
「僕のこの表情、真似てみてください。これができるようになったら、きっと、あなたのマスターは喜んでくれますよ」
それからマスター達が楽しくおしゃべりをしてる横で、僕達は笑顔の練習をしていた。
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