第65話 クロスステッチの魔女、ドールアイを品定めする
「うち、ドールアイをいくつか持ってたはずなんよ。何が似合うか選んでくれる?」
「いいよ、楽しみ!」
歯車細工の魔女に言われて、私はアウローラのための瞳を選ぶのを手伝うことにした。
「両方が歯車の目だと、ちょっとごちゃっとしとるからね。片方を変えたいんやけれど」
「なるほど、この緑に合う瞳を選ぶ、と……ルイスも手伝ってくれる?」
「はい、マスター。せっかくなら、アウローラ自身の希望も聞くべきかと思います」
アウローラはルイスの言葉に小さく頷いたように見えた。それがええ、と言ってから歯車細工の魔女は自らの《ドール》に断り、コマンドを囁くと若草の瞳を取り出した。硝子製の瞳を片方外して、机の上に置く。もう片方の瞳の候補として、何種類かの樹脂でできた瞳が机に並べられた。
緑の地に、金色と銀色の小さな歯車ふたつを組み合わせたもの。赤くキラキラした地に、銀の歯車を置いたもの。白い地に金の歯車を大小ふたつ置いたもの……種類は沢山あって、なるほど、歯車細工の魔女が悩むのも頷けた。全体の数そのものは少ないのは、恐らく、私のように《名刺》として受け取った者がいるからだろう。中には、他の歯車のようにしっかりと等間隔に歯が並んでいないものもあった。
「うーん、確かにこれは悩むわね」
「あの、あんまそれじろじろ見られるんは恥ずかしいんやけど……」
不揃いな歯車を封入した瞳が気になって見ていたところ、少し恥ずかしそうに歯車細工の魔女に言われてしまった。歯車そのものを自作しようとしたんよ、と言う彼女の声は、先ほどまでより少し小さかった。
「でも、アウローラはこれが気になってるみたいだったけど」
瞳をひとつひとつ手に取って見るだけでなく、それを身につけることになるアウローラの様子も私はチラチラと眺めていたのだ。どの瞳に対してもあまり反応を変えなかった彼女が、この瞳を取った時は目線が追いかけていた。気にしていたのだ。
「全部あなたの作品なら、それはこれがいいんじゃない? 他の魔女の手は入ってないんでしょう」
「まぁ、それはそうやな、確かに」
もっと綺麗なのを選べばええのに、と呟きつつ、歯車細工の魔女は嬉しそうだった。気持ちはわかる、私もルイスにそう言ってもらえたらとても嬉しい。まぁ、私はルイスにあげられるようなものを今はあまり持ってないけれど……今度作るかな……。
「アウローラ、あんたはどうしたいん?」
「私は、マスターの《ドール》です。マスターに従います。ですが、マスターから『自由意志の確認』を言いつけられています。その命令に従いますと、私はその瞳を望みます」
表情は硬いまま、それでも彼女ははっきりそう言った。
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