5章 クロスステッチの魔女、冒険する

第62話 クロスステッチの魔女、お茶会の準備をする

「うん、うん、……じゃあ、明後日のお昼ね。場所は……わかった、魔女組合ならわかるから、そこで待ち合わせね。楽しみにしてるから」


 歯車の魔女との通信を終えると、ルイスは興味津々という顔でガーデンクオーツから顔を上げて「今のお方は?」と聞いてきた。


「歯車の四等級魔女って言ってね、友達なの。ルイスを買った直後、その歯車の目を彼女にもらったんだ。あの時はまだ《ドール》を持つお許しが出てないって言ってたっけ」


「じゃあ、僕、お会いしたらお礼を言わないとですね」


 そう言ってニコニコと笑うルイスが可愛らしくて、私は頭を撫でていた。歯車の魔女に会うために、せっかくだからお持たせの一つ二つでも、用意していくのがいいかもしれない。だって、友達なんだから。


「お菓子……のいいレシピあったかな。彼女の《ドール》にも何かあげたいところだけど、性別も聞けてないからそれはまた今度にして……あ、いいの発見」


 前、一人暮らしを始める前にとグレイシアお姉様にもらったレシピ集をめくる。製本はされていない、書きつけの束を紐でくくった簡単なものだ。料理だけでなくお菓子についてもいくつか載っているものの、難しい言葉があるので全部は読めなかった。読める範囲の物は、よく活用させてもらっている。グレイシアお姉様が読みやすい字で書いてくれたから、八割くらいは読めるのだ。


(ルイスなら全部読めるかもしれないから、今度見せてみようかな)


 そんな風に思いながら、私は何度か作っていたクルミのクッキーを焼くための材料を確認し始めた。卵、バター、小麦粉、牛乳、クルミ……必要なものの大体はあってよかった。わざわざ買い物に行く必要はなさそうだったから、さっそく準備に取り掛かる。


「マスター? これは何をするんですか?」


「お菓子を作るの。ルイスも手伝ってくれる?」


「はい!」


 クルミのクッキーはまだそこまで作ったことがないから、今のうちに試行錯誤をしておこうという算段だった。見た目の綺麗なものを作っておきたいのだ、せっかくだから。魔女のお茶会なんだもの、綺麗なものに拘る身としては綺麗なものを用意するべきなのだ。自分一人で食べる食事なら、それなりに見た目は拘らなくてもいいのだけれど……人に、それも同じ一門のお師匠様や姉弟子とも違う、他人にあげるものだ。ここを拘らないのは、魔女じゃあない。


「マスターが読んでいるのは、作り方の本ですか?」


「そう。グレイシアお姉様がくれたの。後ろの方はあんまり読めないけど……この辺の料理とかはすっごい好きなの」


 ルイスにも今度作ってあげようか、なんて考えながら、私はクッキーのタネを作り始める。ルイスには型抜きをしてもらおうかな、とも考えながら、私は小麦粉をふるっていた。

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