第49話 中古《ドール》、主自慢をしあう
僕のマスターが魔女同士のお茶会をしてる間、僕は《ドール》同士でおしゃべり半分講義半分のお話をしていた。僕が今まで会ったことのある《ドール》の中で、イサークさんは最年長だ。自然と、さん、と敬称をつけたくなる。
「私達に何を求めるかは、魔女様方によって違います。ですから早い段階で、ご自分のマスターは自分にどうして欲しいのか、把握しておくのはよい関係のために必要ですな。例えば私は、マスターが着せたい服を着て手伝いをする存在です。こちらのグウィンは、魔女様から完全にお手伝いとしての労働力を期待されておりまして。ですから、服はシンプルなものですな」
「まぁ、あんまり飾りがついてるとグースが齧るのも大きいんですけどね。イサークや君のジャケットのテールなんて格好のおもちゃだから、グースの届かない位置に君をあげた君の魔女様の判断は正しいですよ」
お二人にそう言われて、マスターがあの時僕を肩に乗せていた理由が腑に落ちた。なるほど、と頷きながら、僕はマスターが持たせてくれていた魔力の砂糖菓子をひとつ齧る。魔力が欲しいなと思ったら無理しないですぐ食べること、と今朝も言われ、巾着袋に大量に入れられたのだ。
ついでにもうひとつ学んだこと。例え僕のマスターのように名前を伏せている方でなくても、《ドール》は直接魔女の名前を呼ばない方がいいのかもしれない。二人の話を聞いてるとそんなふうに見えた。今まで話したのはマスターのお師匠様や姉弟子だったけど、関係のない魔女様の《ドール》と話すのはまた感じが違うようだ。
「僕のマスターは、魔女として未熟かもしれませんが最高の人です。まず中古で片目がないまま転がってた僕を買ってくれたこともそうですし、魔法糸を換えて起き上がれるようにしてくれたのもそうです。だから僕は、マスターを守れる強い《ドール》になるのが夢なんです」
気づいたらぽろっと言ってしまった言葉に、イサークさんが一瞬ひやりとした目を向けた気がした。グウィンさんは「少年型って若ぇ」と小さく呟いてる。
「僕のマスターは今でこそクマが酷いですが、忙しくない時期とか僕を買ってくれた頃はそういうのなかったですね。自分のよりよい生活のためにと言って、冬でも手触り良くて暖かい糸を開発したのはすごいと思ってますよ……それで冬に向けて四六時中糸紡ぎしてないといけなくなったのを嘆くのは、そろそろ諦めて欲しいですけど。春から初夏くらいですねぇ、ゆっくりできるのは」
「私のような老人型は、作っている魔女が実は少ないんです。マスターがわざわざ職人を探して、私を注文されたことが誇りですな。母君……私を作った魔女様が、珍しい魔女もいるものだと呟いておられたことを覚えております」
イサークさんの言葉に、僕は自分の昔を思い返そうとする。僕にも、僕を作ってくれた魔女はいるはずだ。中古だったということは、前のマスターだっていたはずなのだ。けれど、やっぱり思い返せない。覚えてる一番古い記憶は、薄暗い店の一角に転がされてるところだ。忘れてしまったのか、消されたのか、わからない。どうしてあんなに閉じた場所がダメなのかも、すぐにはわからないだろうという予感があった。
「僕のマスターもいつかきっと、すごい魔女になるんです。僕もお手伝いできるよう、頑張りたいんです」
「君ならなれると思いますよ」
「今の魔女様にたっぷり愛されてるようで、何よりですな」
僕の決意を、二人は微笑ましく聞いてくれた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます