4章 クロスステッチの魔女と先を願う話
第43話 クロスステッチの魔女、剣を考える
「お師匠様、《ドール》が武器を持つのって危なくないんですか?」
少なくとも、イースやステューがそういうものを持っているのを見たことはない。グレイシアお姉様のスノウはたまに腰から剣を下げてたけど、抜く姿は見たことがなかった。ちなみに、お姉様自身も剣を持ってるらしい。
「細工の魔女が《ドール》用に誂える武器は、魔女に向けられることがないように作られている。《ドール》達の間で剣や槍の技術はある程度広まってもいるけど、あれらは対獣、対魔物の戦闘技術になるね。何体か知り合いの魔女の《ドール》は、やっぱり自分のマスターを守りたいってそういうのを修めてる」
なるほど、ルイスは私を守りたいらしい。《ドール》にはマスターへの忠誠、魔女への敬愛などが最初から刷り込まれていて、そこには当然、『自分のマスターを守ること』も入っている。それがどれだけ行動を縛るか、どう『守る』かは、個体差があるようだけれど。イースなんてマスターであるお師匠様にも口が悪いし、『守るのは生活かなぁ』なんて言いながら料理してたし。
「あの、僕も剣を習ってみたいです。なんだか、前も使ったような気がして……こう、懐かしいんです」
《名前消し》前なのか人間の頃のことなのか、判断に迷うセリフがルイスの口から飛び出した。彼は私達の微妙な困惑にも気づかず、やけに上手な素振りをする。
「クロスステッチの魔女、変な癖がつく前に早く師を決めた方がいい。魔女組合に行けばそういう《ドール》への指南もしてくれるだろうね」
イースの言葉に、そういえば早めに鳥の羽を納めなさいといけなかったことも思い出せた。今日は帰ったら糸を紡いで、まとめて明日、提出しに行くことにしよう。そうすれば剣と指導料を払うくらいにはなるはずだ。最低でも剣は買える……と、いいなぁ!
「マスターを傷つけるような奴が現れたら、僕が止められるようになりたいです」
「そうだね、魔女は素材採取で獣や魔物の近くに行くこともある。馬鹿弟子は知っての通りそそっかしいから、覚えておいて損はないだろうよ」
「返す言葉もございません……」
守られることが増えそうな気がする。独り立ち祝いとしてもらっていた素材も無限にあるわけではないから、採取だってそのうちもっとちゃんと行かないといけない。箱庭も全部が揃っているわけではない。採取の護衛に頼れる知り合いはあんまりいないから、ルイスが守ってくれるのはありがたい話だ。
「ルイスには髪の色みたいな、かっこいい銀色の剣が似合いそうね」
「マスター、お願いします」
思えばこれは、ルイスの最初のワガママだ。だから私は、笑顔で頷いた。
たまに後から、思い返すことがある。あの時せめて他の武器を教えてやれれば、あんなことにはならなかったんじゃないかって。
だけど当時の私には、そんなことはわからなかった。
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