第42話 クロスステッチの魔女、中古ドールを起こす
「さて、馬鹿弟子」
「何も言えませんが、なんでしょうかお師匠様」
「うん、今のあんたが馬鹿じゃないって言い出したらちょっとこうすんなりとは許せなかったかもしれないね」
裁判場をあっさり出してもらって、荷物やルイスを一緒にまずはこの場を離れて、となったところで、お師匠様に声をかけられた。
「あたしとしてはあんたの首に縄かけて家に引き戻したい。なんで一人暮らしして一か月で《裁きの魔女》達が頭抱えるような厄介ごとをふたつもしょい込んでるんだい」
「私が聞きたいです……」
「ルイスはあたしの前で起こすんだよ、何かあったらあんた一人じゃあ絶対に手に余るから」
本当は家に帰ってから、と思ったけれど、確かにお師匠様といる時に起こした方が、何かあった時にはよさそうだ。ルイスに何かあったら、必ずお師匠様に持っていけと《裁きの魔女》達に念押しもされている。ルイスが
「……ルイス」
ルイスを起こすという意思の元、名前を呼ぶ。すると彼の閉じられていた瞼が震え、瞳に意思の色が浮かんだ。小さな唇が「マスター?」と怪訝そうに私を呼ぶ。
「おはよう、どこか痛いところとか、変なところはない?」
「いえ……」
「眠る前のことは、どれくらい覚えてるんだい」
お師匠様が横から言った言葉に、ルイスはしばらく考え込む。少しして記憶が繋がったのか、「マスターは大丈夫ですか!?」と慌てた様子で聞いてきた。
「うん、私は大丈夫。《裁きの魔女》様方からも無罪放免って言われたから、安心して。私があの、処刑場で見たような、悪い魔女に関わりがあるかもって疑われちゃったみたい」
「あの、僕、せっかくマスターに直していただいた魔法糸も……」
「魔法糸とあんたの右腕は、あたしじゃなくてあっちの修復師の仕事さ。動かしてみて、違和感がないか確かめな」
右の手を握って、開いて。腕を動かして、ルイスは思いつく範囲の動きを試してみたようだった。左腕や足も動かし、ついでにジャケットにかけられた魔法で宙を浮く。
「ほぼ、問題ありません。右腕に魔法の、ピリッとした気配はありますが……」
「あんな風に腕が壊れてしまっては、私には直せないしね。何より危ないから、あの魔力を出すのができないように封じたんですって」
「……わかりました」
心なしか、声に納得していないような色がある。後で鏡を見せてあげたら、いっそ綺麗なあの刺青を気に入ってくれるだろうか。
「ルイス、なんともなくてよかったね。クロスステッチの魔女には苦労させられると思うけど」
そう茶化してきたのは、付き添いでついてきていたらしいイースだ。《ドール》は裁判場であくまで証拠品扱いであることが多く、ただついてきただけになってしまったと会って早々に少しぼやかれていた。イースはルイスが直ったことを喜んでいるようだったが、彼の不満そうな様子にも気づいていたようだった。
「ルイス、剣とか持ってみたら?」
「剣? 《ドール》には武器を持ってる子もいないわけじゃない、とはいえルイスは小型だし……」
イースの唐突な提案に私は首を傾げたが、ルイスは興味があるようだった。
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