第37話 少女キーラ、魔女の一端を知る
「キーラ、あなたきっと、魔女に向いた感性があるわ。でも、魔女に向いていない」
「なに、それ。なぞなぞ?」
群生地で花を摘みながら、東の魔女は真面目な顔でそう言った。私は魔女は手袋をして花を摘んでいるのを、確か、眺めていたはずだ。特別な手袋は彼女自身の分しかないから、お手伝いはできないと言われて。
「魔女になれる人、と、魔女に向いてる人、は違うの。その両方がある人じゃないと、魔女になっても辛いだけだから」
「あなたは、魔女になってて楽しいの?」
「とっても楽しいわ。でも、それは私が魔女に向いてるからなの。一緒に魔女に誘われた友達は、試験の結果、魔女に向いてないって言われてね。実際に『自分が魔女になったら』を見せられて、諦めて家に帰ったの」
その時は、意味が分からなかったのだけれど。今なら、わかる。私も試験を受けたから。『魔女になったから、人間だった頃の親きょうだいや友人が自分を置いて年老いて死んでいく』という幻を見せられて、それを受け入れられる人でなければ正式な魔女になれない。それでも時々、後から「やっぱりだめだった」と魔女を辞める魔女がいるらしいけれど。
「魔女って、大変なんだね……」
「だからキーラは、そのままでいて。きっとキーラは、永遠に向いてない」
この頃の私は、魔女の素質—――人でなしである自覚—――がなかった。だから彼女は、私を弟子にして魔女にしようと思わなかったのだ。彼女がお師匠様になってくれていたら、きっと、今のお師匠様と違ってもう少し優しかっただろうと思うのだけれど。まあ、時間を戻す魔法は手の届かないものだ。考えるだけにしておこう。
「永遠に向いてない?」
「そう。家族も、きょうだいも、友達も、魔女じゃない人はみんなすぐにいなくなってしまうの。そんな永遠。だからかな、東の国は元々そういうところがあるけど―――東の魔女は、西の魔女と違って、壊れた道具を直しながら使うの。ちょっとでも長く、一緒に居たいから」
それは、今までの自分達の暮らしとはあまりにも違う言葉だった。壊れた道具を直しながら使うことはあっても、それはお金も資源もない村で生きていくための手段だった。肯定的な感情で、長く一緒にいたいから直したいだなんて、思ったことがなかった。
「東の国ではね、壊れて欠けたモノを継ぐのは愛の証なの。それを直す時、傷が目立つように金を使う人もいるくらいなんだから」
金なんて見たこともない。珍しくて、大切なものなのは聞いたことがある。それを、修復なんかに使うのかと思った時の記憶がある。
「どうしてそんなことをするの? 新しいものを買うお金位、金で継ぐならありそうなのに」
それが心底疑問だった。直すための金を買うお金で、きっと新しいものが複数個買えるだろうにって。私がそう言うと、魔女は笑って、自分の手袋を見せた。ひっかき傷を繕った痕が、目立つ色糸で縫われていた。
「だって、傷はその子が辿ってきた道の証。唯一無二の、その子だけの物語だもの」
そう言われるとなんだかそれが特別に思えて、私は彼女のその教えを大事に胸にしまっておくことにしたのだ。
—―――――目を開くと、そこは知らない漆喰の天井だった。懐かしい夢を、見ていたようだ。
「やっぱり、ルイスは私が大事に守らないと」
夢の中の彼女に、励まされた気がした。まだ、私たちへの《裁き》は、終わっていない。
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