第36話 少女キーラ、少し役に立つ
東の国の魔女は、いくつかの葉や花、石を採取しに来たのが目的だった。魔女は上手に話せるようになってからは、探し物がやりやすくなったと喜んでいた。《探し》の魔法が下手なのか、それとも私と交流したかったのかは、今もわからない。
「キーラ、探してるものがあるの。知ってたら、案内してくれる?」
「うん、大丈夫。お養母さんが、魔女が望んでるのが草花や石拾いなら手伝っておあげ、って」
私に言いつけられた家事が減ったわけではないのだけれど、魔女の手伝いは苦ではなかった。魔女は、綺麗な花や鮮やかな緑の葉を集めに来ている。その道行についていけば、私自身も綺麗なものを見ることができるから。
「この花を探してるんだけど、知ってる? 多分、山の方にこの時期、咲いていると思うんだけれど」
そう言って魔女が見せてくれたのは、植物図鑑だった。当時の私が知っている文字は、自分の名前の「Kira」だけだったのだけれど、まったく形から知らない文字だったことを覚えている。今にして思えば、あれは東の国で使われている文字と図鑑だったのだろう。巻物をするりと広げて、彼女はそのうちのひとつの絵を指差した。本をろくに知らなかったから、世の中にはこんなものもあるんだ程度にしか思わなかったことを覚えている。
「あ、この花、見たことあるよ」
「本当? 使いたい魔法に、とっても大切なお花なの」
「この間、いっぱい咲いてたところを見つけたの。薪拾いに行った森の中よ」
白くて小さな花が、森の中で一塊になって咲いている場所だった。とても綺麗だったから一輪摘んできたことを思い出し、自分の小さな袋から摘んでいた花を出してくる。押し花というものを知らなかったから、ただ摘んで袋に入れていただけだったかれど。
「これでしょう? お花を取っておく方法はわからなくて、摘んだだけになっちゃったけど……」
「そう! これよこれ、とっても嬉しい!」
ろくな保存のできていない、端が茶色くなって萎れた花を彼女は喜んでくれた。あの袋の中身が人生で初めて、誰かの役に立った瞬間……萎れた花が、輝いて見えた。
「ここからすぐ近くなの。大人の足なら、今から行ってもお日様が暗くなる前に帰れるわ」
「行きたい!」
魔女の案内に出かける旨を養母に伝えて、背負子ではなく袋ひとつを持って彼女と出かけた。
「その袋、何、入ってるの?」
「きれいなもの! こっそり集めてるの、この袋に入るだけなら持ってていいって言うから」
萎れた花、川の小石、そういうちょっとしたものだけを詰めた袋。あの頃は、見たこともない宝石やお金より、こういうものの方が綺麗だと思っていたのだ。森に行く道すがら、私の拙い話と稚拙なコレクションを彼女はうんうんと聞いてくれていた。
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