第15話 クロスステッチの魔女、またしても空を飛ぶ

「今から私たちは、魔女組合ってところに行くの。ルイスが私の《ドール》だって手続きもしないとだし、後ちょっと仕事も探したいから」


「仕事、ですか?」


「魔法で出せるのは砂糖菓子とパンだけだから、それ以外の食べ物は買わないとね。

それに、《ドール》を連れている四等級魔女だと受けられる仕事が増えるの」


 私はお師匠様の家を辞してから、右手にルイス、左手に箒、首からカバンという姿で移動していた。説明しながら森を少し歩いて、開けた場所に向かう。お師匠様の家の前で飛ぶのも考えたけれど、せっかくだから森で少し採取もしたかった。

 朝露はもう取れない時間になってしまったけれど……。陽光を浴びた白い小石、アラクネ蜘蛛とその巣、赤くてキラキラしたガーネット・ベリー、絞め殺し草の葉。この辺りはお師匠様の縄張りで、少しなら採っていいと弟子入りしてすぐに許可をもらっていた。採った材料を、ハンカチにくるんでカバンにしまっていく。蜘蛛と巣は、庭の同じような樹に移した。


「採っていいのは、3つの内2つまで……ベリーは今ここでおやつにしちゃおっか」


「いいんですか?」


「量が少ないからねえ」


 ベリーの種を爪で取って、庭に埋める。庭の箱をカバンに収めてから、綺麗な方のベリーをルイスの口に入れてあげた。遠慮してるようだけれど、口で説得したら時間がかかりそうだからね。種を取った方のベリーは、私が食べた。甘酸っぱくておいしい。


「マスター、これ、おいしいです」


 目が眼窩から零れ落ちそうなほどに見開いて、ルイスが本当においしそうな顔をしている。大変にかわいい。こんな顔をしてくれるのなら、庭で頑張ってガーネット・ベリーを育ててみてもいいかもしれない。赤色の染料としても、このベリーは優秀だから。


「よかったよかった……あ、ここからならよさそうだね。ルイス、ちょっとカバンに入っててくれる?」


「はい。わかりました、マスター」


「おなかすいたら、首にかけてる袋から砂糖菓子出して食べてていいからね」


 そう言ってルイスの頭を撫でて、彼をカバンに入れる。一緒に箒に乗るための手段を、組合で聞いてみてもいいかもしれない。それに、ルイスと一緒に歩いたりするためには、彼を浮かせるための《空中浮遊》が欲しいところだ。


(とはいえ、《空中浮遊》は浮かせるだけ。お師匠様の《浮遊》のような上位魔法は、まだ私には早いし……)


 《空中浮遊》は、その刺繍をつけたものを浮かせるだけだ。お師匠様のように、狙ったものを浮かせたり飛ばしたり、という《浮遊》魔法は私には難しすぎる。


「やっぱり、魔女組合の人達に聞いてみようっと」


 結論のない考えをいったん止めて、《空中浮遊》のリボンを根元につけた箒にまたがる。今日は急いでいないから、《引き寄せ》の魔法は使わなかった。箒を傾けた向きに進ませて、山向こうにある魔女組合の建物を目指す。


「ルイスのものを買い込みすぎちゃったから、お金も稼いでおきたいしね……」


 魔女組合に行けば、魔女同士で仕事の融通がある。魔女用や《ドール》用の店もあるし、いつも誰かしらはいるから相談もできる。《ドール》同士を見せ合ったりする楽しみもあるから、ルイスを連れて行くのが本当に楽しみだった。

 小さく、カバンが震える。中のルイスが早く行きたがってるのかもしれない。


「わかったわよ、ルイス。もうちょっとで着くから」


 ぽんぽんとカバンを叩いて、私は箒の速度を上げた。

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