第4話 それは六月のこと 朗 日常のあるとき
それはいつもと変わらない六月だった。「六月から梅雨」と言っても、六月の最初の頃から雨が毎日降り続く……などという年は少ない気がする。六月の終わり頃から七月にかけて雨が降る日が比較的多くなり。七月の中旬から終わり頃にかけては『もう梅雨終わってるんじゃないの?』と思うほど晴れの日が多くなる。しかし天気予報では「日本列島に梅雨前線があるから、まだ梅雨明けしてない」という。「梅雨前線が北上し日本列島からなくなれば梅雨明け……」だから、いくら晴れの日ばかり続いても、
高知市内の商店街で酒屋を営む宮田酒店。その酒屋の息子である
彼にはお兄さんがいるのだが、関西の大学を卒業後、大阪の大手企業に就職し、そちらで結婚して家族もいるということだった。「いずれ自分が実家を継ぐことになる」と言っていたが、そういう事情で、その「いずれ」は、結構、早い時期にやって来た。
その業界も量販店などの進出により、昔ながらの酒屋は、以前よりかなり厳しい状況になっている。宮田酒店の経営もかなり厳しいものとなっていたが、地元で業歴も長く、商店街の強い団結力と長年築き上げてきた取引先の飲食店や居酒屋とのつながりに支えられていた。
朗は毎日、それら取引先の店に日本酒やビールなどを配達する。それが毎日の仕事だった。
そんなこともあって地元商店街の顔であり、市内でもかなり顔が広い。
高知の八月は『よさこい祭り』で
今年は友人から高校を卒業してからずっと会ってなかった奈緒子が帰ってくるらしいというLINEをもらった。奈緒子は小学校以前からの幼なじみで、親同士も仲がよかった。奈緒子は仕事が忙しく、この時期はなかなか帰って来れないということも聞いていた。『久し振りにお盆に帰ってくるがか……』そう思った。奈緒子の
そんななか、また別の友人から、今年は
よさこい祭りのシーズンは地元高知に
ヴァイオリン奏者として有名で、時々地元の新聞などにも活躍が取り上げられていたが、朗は新聞を読んで初めて彼女が同級生だったことを知った。
学生時代からヴァイオリンなどというものに
そもそも、高校の三年間しか同じ学校ではなかったし、その三年間についても、同じクラスになったことが一度もなかった。彼女が、それ以前、どこの中学校だったか、小学校だったか、どこから来たのかもよく知らない。当然、彼女の卒業後の進路も知らなかった。社会人になってから新聞で知ったのだ。
そんなこともあって、青柳美弥と聞いても、学生時代の彼女の顔が浮かんでこない。『同学年にいたかなあ……』という感じだった。そして、『おそらく彼女と親しかった一部の女子しか彼女のことを知らんがやないか……』とも思った。
これまで地元にいる友人から「今年は〇〇さんが帰ってくるらしいで」とか「〇〇君が帰ってくるって言いよったで」などの
そんな連絡が多いなか、当然、直接連絡してくれる者もいた。和也がその一人だった。「今年もお盆に帰るよ。よろしく」ときた。『何をよろしくだ。こっちはいろいろ忙しいき』と思いながらも、今年は連絡してくれる友人が多かったので、集まれる者で「同窓会をやろう」ということになった。
というよりも、こういう状況になってしまった以上、朗が「同窓会をやろう」と言わざるを得ない形になった。当の朗は『よさこい祭り』の練習や準備で忙しかったのだが、そういう役回りが多いのが彼だった。
そんな六月のこと。
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