第9話 キャミソール、おっぱい、怒り、特訓
肩においていた手を、へびが這うように、奥さんの鎖骨から、乳房へとのばす。授乳期の、はりある乳房は、まるで温かなこねたてのパン生地みたいだ。そんな感触が、キャミソールの繊維越しに僕の手からつたわってくる。
「直接、じゃないのかい」彼女は惑うように、僕の手を見た。
「まあまあ。大丈夫ですから」
触れるのみだった手をゆっくり曲げて鷲掴む。曲げられた指の関節によって、にゅっと乳房が正面に起き上がった。
「んっ」と女の息が漏れた。
「痛いですか」
「いいや」
手のひらを曲げたり、ひろげたりを繰り返して、温もった、たぷたぷの柔らかな大きな実を楽しむ。キャミソールのせいでしっかり掴めず、時々手をすべりながら。
「おい、これじゃあいつまで経っても出ないよ」
「ごめんなさい、飽きがこないもので」
手を離して、さきっぽのつんとした乳首のあたまをぴんと、中指ではねた。
「あっ」彼女は仰け反って、僕の鎖骨に頭をもたげるようにした。
「これも必要なことなんです」
「そ、そうなのか」
「はい」嘘だけど。
奥さんが受け入れてくれたので、僕は遠慮なく、今度は乳首のまわりに手を沿わせて、人察し指で二つの乳首をはねたり、くっと押したりした。
「ちょっと、ああっ」彼女は胸の感触を逃がすように、僕の手に、彼女の手を重ねた。「そんなにしたら」
「そんなにしたら、どうなんです?」
「や、やっぱりだめだ、離せ」
「いけません、赤ん坊のことを考えてください」
きゅっと、人差し指と親指の腹で、みぎの乳首をつまむ。
「やっ」つまんでいた手首を彼女は掴むが、引きはがそうとはしなかった。
ひだりのほうもおなじようにつまむ。
「はぅっ」と彼女はからだを左右に小さくくねらせた。
乳輪のあたりを親指、人差し指と中指で、心持つよくはさむ。
「ダメ、でちゃうから」という、奥さんの小さな悲鳴のあと、キャミソールを超えて、搾られた母乳がしみをつくりながら垂れて、僕の指を濡らした。手を目の前に持ってくると、それは白い液体が指から指へ線をひいている。べろり舐める。ほんのり甘い匂いが、舌から花をとおって過ぎていく。
「甘い」と僕は言った。
「あんた、舐めたのかい」奥さんは僕を顧みて、驚いた顔を向けた。
「静かにしてください。それじゃあ、脱いでください」
とん、とん。階段を足早に降りる音がする。紅葉さんだ。なごり惜しく思いながら、僕は奥さんの指示どおり、押し入れの中に隠れた。さっさと直接、おっぱい揉めばよかった。しかし、着衣越しに触れるのも夢だったのだからしようがない。押し入れでじっとしながら、僕の行方を聞く紅葉さんと奥さんの会話を聞くうちに、思い出したように尿意が襲ってきたので、僕は急いで厠へ向かい用を足した。そうして紅葉さんの部屋に戻って、ぎこちない会話を再開した。
二分は、揉んでいただろうか。三分は経っていない気がする。夢のような時間だった。あの時を、永遠に引き伸ばして、そのなかに身を浸したい。
紅葉さんの家をあとにしてから、僕は脳内に乳房の映像を、手のひらに乳房の感触を浮かべながら、百均へ向かった。万能台も家具屋よりかなり安く買えて、満足して下宿所に帰った。今日は気持ちよく寝れそうだ。
口笛吹いて扉を開けると、怒った顔のパムさんが、腕を組んで僕を見下ろしていた。
「た、ただいま帰りました」と僕は言った。
「それはわかっておる。どうして、ただいま帰ったのじゃ」
昨日は確か一尾だった尻尾が、九本になって、パムさんのお尻辺りから円を描くように伸びて、蜃気楼みたいにゆらゆらしている。
「自主訓練……を」
「結構なことじゃな。だがな一大、約束を破るのはいかんぞ」
パムさんの瞳を見るに堪えず、逸らして、僕は腹に抱えたプラスチック製の万能台を力なくみた。
しかして僕の、特訓の日々が始まるのであった。特訓は神社で行われた。内容は、膝の屈伸、腕立て伏せ、背筋運動、腹筋運動である。こんなことをして、果たして女の子と仲良くなるのに役立つのか疑問に思ったが、パムさんは「良いから黙ってやれ」と睨むばかりであった。
その日は、筋肉痛で全く寝つけなかった。
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