第4話 ぴちぴちのセーラー服なのに加え、胸がゆっさり大きいから、割に小さなおへそがちらちら覗ける。
下宿所を出ると、通りにちらほら制服姿の男女が見える。僕の入学した高校では、制服でも私服でも構わないということだが、やっぱ皆制服が着たいのかな。かく言う僕も、親にわがまま言って買ってもらった。
パムさんは、僕の首にマフラーのように巻き付いている。いや、マフラーに変身しているのだ。
入学式は、校長の挨拶に始まり、校長の挨拶に終わった。始終真面目な顔も居れば、端から退屈そうな者も、途中から飽きた顔の者も居た。
振り分けられた教室へ向かう。僕は一組だった。体育館から教室棟への道中、僕は見た。僕を蹴ったあの男が居る。真っ黒い着物を着て、隣には神社で見た子も。親し気だ。なるほど、だから髪色がそっくりなのだ。二人は恋人同士で、どちらからともなく揃えようと言い出したのだろう。
教室にて、自己紹介が行われた。僕は教卓の前に立つと全身が隠れるので、その隣に立った。マフラーのことを一番前に座る鬼の女にからかわれた。緊張のせいで特に返事できなかった。鬼の女はふいと顔を逸らし、金色の前髪を不機嫌そうに揺らした。これがきっかで僕は彼女に目を付けられた。
昼時間になった時だった。「おい」と脅すような、鬼女の声が背後から聞こえた。まさか、僕に言ってないよな。振り返らないでおこう。
「おい、一つ目」
恐る恐る顧みる。セーラー服の、鬼女が立って居る。確か、名は紅葉。金の髪はショートで、白の二本角、眉は薄く目はきりり、きつい印象をこちらに与える。背丈は、クラスで最も高い。椅子から見上げる胸はせり出したように大きく、ちょっと近づけばその顔が隠れそうなくらいだ。
「な、なんでしょうか」と僕は言った。
「どうして、俺を無視したんだ」
お、俺っ娘だ。似合っているから違和感ない。
「緊張、したんですよ」気にしていたのか。申し訳ない。
紅葉さんの背後で、女生徒がくすくす笑った。きっと、彼女の友人なのだろう。
「ふうん、そうか」僕の言葉の真偽を判別するように、じろじろ見つめられる。
そんな瞳と一秒間ぐらい視線を合わせていたが、気まずくなって下に逸らした。
ぴちぴちのセーラー服なのに加え、胸がゆっさり大きいから、割に小さなおへそがちらちら覗ける。
紅葉さんが、僕の変態観察に感づいてはいやしないかと怖くなって見上げると、彼女は未だ難しそうな顔をしている。気づいてはいないようだ。
「じゃあお前、俺の弁当買ってこい」青のスカートに手が突っ込まれ、その手から僕に五百円硬貨が、乱暴に投げられた。それは僕のおでこにあたり、膝に落ちた。発行されたばかりの、新しいぴかぴかの五百円玉だ。
ぼけっとしながら膝から手に掴み「はい」と言った。僕の返事を合図に、紅葉さんの友人たちからもお金を渡された。僕は、僕の分も含めて四人分、弁当を買いに行かなければならなくなった。
購買へ急ぎ足で行きながら、懐の硬貨を指で弄ぶ。自己紹介の時、紅葉さんへ何かしら返事していたら、こうならなかったのだろうか。まあでも、ちゃんとお金を渡してくれただけ良い人たちだと思うべきだ。
僕は二足ほど、遅れたみたいだ。既に中庭は盛況である。何も買えなかったら僕はどうなっちまうのだ。な、殴られたりするのかな。
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