第682話 十二月十三日一回目のリハーサルを終えて(一)

 園香そのかたちのグラン・パ・ド・ドゥが終わって『終曲のワルツ』と由奈ゆなの最後の場面を振り返る。

 この全員で踊る『終曲のワルツ』でも松野や美香、静音しずね葉月はづき、ルエルやエルネスが出演者全員に分け隔てなく丁寧にアドバイスをくれた。

 千春たち大人の出演者からゆいたち一番小さな子どもたちまで皆に丁寧なアドバイスをくれた。

 千春たち大人クラスのメンバーはルエルたちから踊りを教えてもらえることは信じられないことという感じで終始緊張している様に見えた。通訳についてくれた青山青葉あおやまあおばバレエ団の佐由美や麗子、康子たちが、

「そんなに緊張しないでくださいね」

 と言うが、その言葉も耳に入らないほどそわそわした感じだった。ルエルがそれを察して、

「ダイジョブデスカ?」

 と聞くと、千春はたどたどしく、

「OK、OK」

 と返していた。

 千春たち大人クラスの出演者たちは皆、教えてもらいながら、まさかこんな凄いダンサーや指導者たちが、これほど細かく自分たち一人一人の踊りを見てくれていると思っていなかったようだ。

 大人クラスのメンバーたちは驚きと嬉しさが入り混じった表情で、一言一言のアドバイスを真剣に聞き、言われたところを丁寧に踊り直して見てもらっていた。

 静音や美香、ルエルやエルネスたちはアドバイスをしながら、その一つ一つの注意点を踊って見せた。ルエルやエルネスのアドバイスで言葉の分からないところや細かい表現は、すみれや美織みおり古都ことたちもそばで通訳してくれた。


◇◇◇◇◇◇


 ルエルたちはゆいたちを見ると、その可愛らしさに思わず微笑み、唯や真由、あい瑠々るるの頭を撫でる。すると唯が嬉しそうに微笑んで手をあげて、

「ボジョ」

 と言う。瑠々が思わず、

「なんやねん」

 と言って足を滑らせコケるような仕草をすると、周りにいたキッズクラスのメンバー全員が足を滑らせる様にしたり、つまづくようにしてコケる真似をする。

「オー!」

 と言って、ルエルやエルネス、ディディエとラクロワが拍手をして喜ぶ。そばで見ていた静音が目を丸くする。

 近くにいた葉月はづき朱里あかりたちも、その光景に驚いて、

「な、なんやねん」「瑠々か、これ教えたん」

 と言うと、唯が笑顔で手をあげて、

「大阪のご挨拶」

 と言う。

「ちゃう。ちゃうで、唯ちゃん。そんなん挨拶ちゃう」「瑠々か!」

 と朱里たちが瑠々の方を睨んで言うと、瑠々が慌てて、

「ちゃ、ちゃうで『お約束』や『お約束』言うたのに、なんか通じんかったから『挨拶みたいなもんや』って言うたら『大阪の挨拶』ってなったんや」

「なにを教えてくれてんねん。バレエは上品やねん。上品やねん」

 と葉月はづきが言う。瑠々が困った様な顔をして、

「なんで『上品』て二回言うねん」

 と言うと、後ろからパシッと美香に扇子せんすで叩かれていた。

 その光景に笑いが広がり和やかな空気に包まれた。


◇◇◇◇◇◇


 その後、エキシビションのダンサー六人の踊りを確認する。

 この踊りに対しても、松野や美香だけでなく、静音、ルエル、エルネス、ディディエやラクロワも、それぞれのダンサーたちにアドバイスをしていた。

 そんな中で、周りの者たちが驚いたのは、真理子がすみれや美織、優一たちに細かい踊りをのアドバイスをしていたことだった。

 園香もそれを近くで聞いていた。園香は以前、東京に行ったとき、真理子が青山青葉バレエ団のダンサーたちに踊りや踊りの表現を指導しているところを見たことがあった。しかし、すみれの『グラン・パ・クラシック』のヴァリエーションに対してアドバイスをしているのは初めて見た。


 そうして、一回目のリハーサルの振り返りは終わった。その後、すぐに二回目のリハーサルに入る。

 この公演は日によって昼公演、夜公演で踊るダンサーが変わる。変わるといっても違うところは『ねずみと兵隊人形の戦い』の場面で、ねずみ役と兵隊人形役の出演者が入れ替わるだけだ。

 ねずみ役の中でも子ねずみ役の唯や真由、藍、瑠々の四人は変わらない。

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