第377話 ホールリハーサル一日目 楽屋(二)

 園香そのかたちが楽屋がくやで準備していると衣装係の由香と一花いちかがやって来た。

「おはよう、今日はよろしくお願いします」

 二人が園香たちの楽屋を覗き込むようにして挨拶する。

「おはようございます。今日はよろしくお願いします」「おはようございます」

「おはよう。今日はよろしくね」

 園香たちが挨拶すると、由香が楽屋を見回して、

美織みおり、リハーサル中は、あちこち行き回らないでね」

 と言って微笑むと、園香たちの間にも笑いが広がった。由香と一花の二人は真理子とあやめの楽屋にも挨拶に行く。

 花村バレエの生徒たちも次々とやって来る。あちらこちらから「おはようございます」という声が聞こえてくる。


 恵人けいとしずか寿恵としえ古都ことを始め、青山青葉あおやまあおばバレエ団の面々がホール入りし始めた。

「おはようございます。今日はよろしくお願いします」

 恵人や古都の声が通路の方から聞こえてくる。園香やすみれも廊下に出て挨拶する。青葉あおばとおるげんもやって来た。

 皆で挨拶を交わす。青葉と徹は園香たちに、

「今日はよろしくね」

 と言って真理子たちの楽屋に行った。


 康子と佐由美が園香たちの楽屋にやって来た。

「おはようございます。園香ちゃん、今日はよろしく」

「おはようございます」

 佐由美が美織に聞く。

「麗子はどこの楽屋使うの?」

「青山青葉バレエの楽屋でもこっちでも、どっちでもいいと思うよ。ここ結構、余裕あるし」

 すみれが横から、

「でも、ここ使うんだったら、いろいろ手伝ってもらうわよ」

 と言うと、一緒にいた麗子が笑顔で答える。

「いいですよ。何でも言って下さい。あ、すみれさん、和也が来てますよ」

「そう、後で合わせるから、伝えといて」

「はい」

 園香は何の事だろうと思いながら、すみれと麗子のやり取りを聞いていると、そこへ和也という男性がやって来た。

「おはようございます。すみれさん、よろしくお願いします」

 青山青葉バレエ団の『白鳥の湖』で道化を踊っていた男性だ。楽屋にいた皆が挨拶を返すが、園香も真美もどういう事だろうという表情で顔を見合わせる。

 今回『花のワルツ』で青山青葉バレエ団の男性が四人補充されて踊ることになっている。四人は何度かリハーサルに参加していたが、そのうちの一人が変更になり今日からこの佐藤和也が入るそうだ。

 園香と真美がもう一度顔を見合わせる。あり得ないと思った。本番さながらの舞台リハーサルから初めて参加する。しかも、振りも構成がかなり複雑な『花のワルツ』の中で、すみれのパートナーとして踊るという。

 すみれが、驚きが隠せない園香と真美を見て、

「大丈夫よ。彼『花のワルツ』何回も踊ってるから、私と踊ったこともあるから」

「それでも……そんな」

「すごいなあ」

 真美も驚いて呟く。


◇◇◇◇◇◇


 そんな会話をしているところへ、オーケストラの恵那えな久木田くきた、有澤、青柳あおやぎの四人がやって来た。

「おはよう。今日はよろしく」「今日はよろしくね」

 園香、すみれ、美織が挨拶を返す。

「おはようございます。今日はよろしくお願いします」

「もう、オーケストラのメンバーは全員そろってるよ」

「後で挨拶に行きますね」

 すみれが微笑む。恵那たち四人は真理子たちの楽屋へ挨拶に行った。


 その後、少しして、真理子とあやめ、北村たち花村バレエのスタッフが、それぞれの楽屋に挨拶に行き、今日のスケジュールを伝える。


◇◇◇◇◇◇


 舞台というものは、最初、出演者やスタッフがホールに入りした時、舞台上には何もない。そんな何もない舞台にリノリウムというシートを敷く。

 そして、リノリウムを敷いた後、舞台上で照明の仕込みが始まる。舞台の天井から数本吊り下げられている棒状のバトンと呼ばれるものを下ろして、それに照明器具を取り付けていく。取り付けた後、照明の付いたバトンを天井に上げる。その他様々な照明をセットし終わって初めて舞台が使えるようになる。


 先程、舞台で青野が指示を出して照明の仕込みをしていたのはこの作業だ。


 今日の予定では、舞台が空いたら舞台上で、普段、稽古場でやっているバーレッスン、センターレッスンをすることになっていた。


◇◇◇◇◇◇


 真理子と青山青葉バレエ団の徹のところに、照明スタッフたちの作業が終わったという連絡が入った。

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