第33章 ホールリハーサル
第375話 ホールリハーサル一日目 朝
今日から二日間、ホールでのリハーサルが始まる。
花村バレエは市内に教室が三ヵ所あり、今回の会場となるホールから歩いていける距離にも教室が一つある。
今回のホールで公演や発表会があるとき、
園香が稽古場に来ると、バレエ教師の北村と小林が忙しそうに準備をしていた。
「おはようございます」
「おはよう。園香ちゃん。もう、真理子先生はホールに行ってるよ。あやめ先生もさっき行ったの」
「そうですか。すみれさんや
「うん、そう言ってた」
「何か手伝う事ありますか?」
忙しそうにしている北村に園香が聞くと、北村が笑顔で振り向き、
「大丈夫、大丈夫。私たちもすぐ行くから」
と言う。結局、何を忙しそうにしていたのか、よく分からなかったが、何かホールに持って行くものを、あやめに頼まれて準備していたようだ。
「じゃあ、私、先に行きますね」
そう言って園香はホールに向かった。
稽古場から歩いてホールに向かう。
わずかな距離であるが、通りですれ違う人々が、キャリーバッグを引きながらホールに向かう園香を見て、今日はここで何かイベントがあるのだろうかという様な顔でホールを見つめる。
園香がホールの建物沿いに歩いて行くと、既に、その周りには荷物を搬入するトラックがたくさん並んでいる。何台来ているのだろうトラックはすべて東京のナンバーのトラックだ。舞台の照明、作品の背景となる幕や床に敷くリノリウム。大道具、小道具。オーケストラの楽器……様々なものが搬入されていく。
園香はスタッフの人たちに挨拶しながらホールの入り口に向かう。
何度もバレエの舞台に立ってきた園香だが、今回の公演の規模の大きさを改めて感じさせられた。
園香がホールに入ると、丁度、そこへ真美がやって来た。この早い時間に
間もなく
「すみれ先生、美織先生、おはようございます」
と両手を広げる様にして右足をちょこんと前に出してバレエのお辞儀をする。
「おはよう。唯ちゃん今日も元気ね」
すみれと美織が唯の頭を撫でながら微笑む。
「瑞希先生、園香先生、真美先生、優一先生、おはようございます」
同じように園香たちにも挨拶をする。
「おはよう唯ちゃん早いね」
園香たちも笑顔で返す。
園香やすみれ、唯たちがホールの入り口から客席の方に入ると、舞台の上では照明スタッフの人たちが仕込みをしていた。
客席の前の方でスタッフたちに指示を出している舞台照明のチーフらしい男性がいる。すみれがその男性に声を掛ける。
「
男性が振り向いた。
「おはよう。早いね。あれ、皆さんは」
男性は園香たち笑顔で会釈する。園香と真美も、この男性に見覚えがあった。唯が嬉しそうに青野に微笑み、
「あ!
と大きな声で言う。
今日と同じように照明の仕込みをしていた青野が、唯たち皆を舞台に上がらせてくれた。そして、オーケストラの準備をしていた
その時の事を唯は伝えようとしたのだ。
照明のチーフ青野が微笑みながら皆のところにやって来た。
「あ、確か、唯ちゃんだったね。東京で『白鳥の湖』の時、皆に舞台に上がってもらった」
「うん」
嬉しそうに唯が微笑む。
「皆でいい舞台にしようね」
「うん」
青野が優しく話し掛けると唯が大きく頷く。
そんな話をしていると
「唯ちゃん、おはよう」
「おはよう、知里ちゃん」
知里の方へ走って行く唯。知里が笑顔でやって来て皆に挨拶をする。園香たちも知里に微笑み掛ける。
「知里ちゃん、舞台頑張ろうね」
「はい」
すみれが知里を抱きしめる様にして知里に優しく声を掛ける。知里の元気な返事がホールの客席に響いた。
すみれが知里のお母さんとお父さんにも丁寧に挨拶する。二人も爽やかな笑顔で挨拶を返した。
園香に続いて知里と唯が元気よく
すみれや美織、真美たちが、もう一度、客席や舞台を見回すようする。そして、皆で楽屋の方に歩いていく。
青野たちが照明の仕上げに入る。
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