第374話 ホールリハーサル前日のリハーサルを終えて(三)

 明日から二日間ホールリハーサルが始まる。一日目は本番の舞台ですべての踊りと演技を確認しながらのリハーサルとなる。そして、二日目の午後から本番通りの通しリハーサルをするというスケジュールだ。ここで知里ちさとの幼稚園の生徒たちを招待してのリハーサルとなる。

 この時は振りも衣装もメイクもオーケストラ演奏もすべて本番通りとなる。本番と日時が違うだけのリハーサルということだ。


 キッズクラスは今日の稽古は終わって解散ということになっていたが、まだ、ほとんどの生徒とお母さんが教室に残って雑談していた。


 園香そのかがすみれ、美織みおりと一緒に知里と知里のお母さんと話をしていた。明後日のホールリハーサルは知里が通っていたさくら幼稚園の友達が観に来てくれる。

 知里は一昨日、幼稚園でお別れ会をしてもらったそうだ。少し寂しそうな顔をする知里をすみれと美織が抱きしめる。園香も頭を撫でて抱きしめてあげた。

「明日、明後日と頑張ろうね」

 園香の言葉に微笑みながら頷く知里。

 そこへ古都ことが一人の女性と一緒にやって来た。

 誰だろう? 園香は今回のリハーサルで初めて見る女性だと思った。青山青葉あおやまあおばバレエ団の団員だろうか。そんなことを思っていると、古都が知里と知里のお母さんに話し掛けてきた。

「知里ちゃん、お母さん、少しいいですか?」

「はい」

 知里が元気に返事をする。

「は、はい」

 急に古都ことから声を掛けられたお母さんが緊張した表情で返事をする。

 知里のお母さんもバレエが大好きなお母さんだ。彼女にとって、すみれや美織と同様に、当然、古都ことは世界的な大スターだ。今回の公演のリハーサルで、何度も花村バレエに来てくれている古都ことだったが、古都ことと直接話をするのは初めての事だった。


 古都ことが一緒にやって来た女性を紹介した。

「こちらは森川有紀もりかわゆきさん。今、英国ロイヤルバレエでファーストソリストをしているバレリーナです」

「こんにちは、森川と申します。今、少し日本に帰ってきているんです」

「はあ」

 急に見ず知らずの女性を紹介されてきょとんとする知里のお母さん。

「私、ロンドンに住んでいるんです」

「え! そうなんですね」

 知里のお母さんの表情がパッと明るくなった。隣にいる小さな知里は何の事だろうという表情で有紀を見つめている。

 有紀が知里に微笑み。

「知里ちゃん。こんにちは」

「こんにちは」

「お姉さんは、今度、知里ちゃんが行くロンドンでバレエを踊っているの。その前は、すみれ先生や美織先生と一緒にバレエを踊っていたの。古都こと先生とはロンドンで一緒に踊っていたの。お姉さんも皆のホールリハーサルを見たらロンドンへ行くの。また、向こうで会いましょうね」

「うん」

 知里が元気に頷く。有紀は優しく知里の頭を撫で微笑んだ。その後、有紀と知里のお母さんは連絡先を交換していた。

 これから始まるロンドンでの生活に不安を感じていた知里のお母さんも少し気持ちが軽くなったように見えた。


 いよいよ明日からホールリハーサルが始まる。


――――――

〇ファーストソリスト

バレエの階級。準主役。ソロの踊りを任されるダンサー。主役を踊ることもあります。バレエ団によりますが、プリンシパル、ファーストソリスト、ソリスト、ファーストアーティスト、アーティストなどの階級があります。

――――――

〇バレエの階級

◇プリンシパル

主役級ダンサー。バレエ団の顔となるダンサー。

◇ファーストソリスト

準主役。ソロの踊りを任されるダンサー。主役を踊ることもある。

◇ソリスト

ソロの踊りを踊るダンサー。

◇ファーストアーティスト

コール・ド・バレエ(群舞)のトップを踊るダンサー。

◇アーティスト

コール・ド・バレエ(群舞)を踊るダンサー。

――――――

パリ・オペラ座バレエ団では、エトワール、プルミエ・ダンスール/プルミエール・ダンスーズ、スジェ、コリフェ、カドリーユという階級があります。


〇パリオペラ座バレエ団の階級

☆エトワール

主役級ダンサー。バレエ団の顔となるダンサー。

◇プルミエ・ダンスール/プルミエール・ダンスーズ

重要な役を踊るダンサー。重要なソロの踊りを任されるダンサー。

◇スジェ

ソロの踊りを任されるダンサー。

◇コリフェ

コール・ド・バレエ(群舞)のリーダー。コール・ド・バレエ(群舞)のトップを務めるダンサー。

◇カドリーユ

コール・ド・バレエ(群舞)のダンサー。

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