第357話 ホールリハーサルへの準備 キッズクラス

 お母さんたちが集まって話している。今度のホールリハーサルの手伝いについて話しているようだ。


 バレエ教師の小林麗子がやって来た。ホールリハーサルの前に、今回初めて舞台に立つ子のお母さんたち、小さい子のお母さんたちを集めてメイクの指導をすると言っていた。

 ゆいのお母さんも前回一度、発表会を経験しているが最近新しく教室に入った子のお母さんたちと一緒に真剣な表情で聞いている。

 すみれと美織みおりがお母さんたちの後ろで聞いている。すみれに目で呼ばれて園香そのかも小林の話を聞く。

 今度のホールリハーサルの段取りと色々な伝達事項を伝える。ホールリハーサルは本番の公演とほぼ変わりない段取りで行われる。公演当日の予行演習ができる貴重な時間だ。


 すみれが美織と園香に言う。

「キッズクラスのお母さんたちの中には、今回、初めてお子さまが出演するお母さんもいるでしょう。そういうお母さんたちを私たちもフォローしてあげましょう」

 園香は頷いた。園香も、すみれや美織程ではないにしても、舞台には慣れている。

小林のリハーサルの説明が一通り終わり、メイクの勉強会のことを話す。前以って小林からすみれにメイクの勉強会の事は連絡してあったようで、リハーサルの二日前のレッスン後、すみれがメイクの指導をすることになっていた。


 すみれが知里ちさとを呼んだ。

「知里ちゃん。今度レッスンの後、先生が皆にメイク……舞台のお化粧ね。お化粧のお勉強会をすることになったんだけど、知里ちゃん、モデルになってくれるかな」

 知里が何だろうという顔をする。

「知里ちゃんにお化粧をさせてもらっていいかな?」

「うん」

 知里が目を輝かせて頷く。すみれが知里のお母さんにも声を掛けて微笑む。

「説明しながら、お母さんにも一緒にやってもらおうと思います。いいでしょうか?」

「はい」

 知里のお母さんも微笑む。

「いいなあ」「いいなあ」「知里ちゃん、いいなあ」

 とキッズクラスの子どもたちが口々に言う。すみれが微笑みながら、

「みんなも美織先生や瑞希みずき先生、園香さんや真美さんに手伝ってもらってお化粧の練習してもらうから」

 と言うと、子どもたちは笑顔で顔を見合わせて、大きく手をあげて、

「はーい」「はーい」

 と大きく返事をした。


◇◇◇◇◇◇


 その日も全体のレッスン、公演リハーサルが終わった後、キッズクラスの唯や知里、真由が楽しそうに『子ねずみ』の演技を確認している。小学生低学年の生徒たちも集まってきて『兵隊人形』役の生徒たちも一緒になって、いつの間にか皆で練習を始めた。


 すみれに呼ばれて園香も一緒に、子ねずみと兵隊人形の戦いのシーンを見る。すみれがこの場面で気を付けて見てあげるポイントを教えてくれた。園香にとってはその指導が新鮮で勉強になった。

 踊っている子どもたち自身には、その微妙な違いの意味がわからないとしても、このたくさんの人数で、複雑に動く構成で、客席から、いかに見やすく見せるかということを意識して全体を調整していく。その繊細な指導に驚かされた。


 子どもたちは楽しそうに、すみれの指導を聞き、踊りや演技を修正していく。周りで踊っている子との距離感や演技、表情を見ながら合わせる。

 すみれの細かい指摘も、周りの子たちと目配せしながら踊ることで感覚的に受け入れやすいようだ。


「唯ちゃん、ここ、こうだよ」「知里ちゃん、もう少しこっちだよ」

 とお互いに確認しながら楽しそうに踊っている。

 知里がすみれのところにやって来た。

「すみれ先生、ここはこうでいいの?」

 と踊って見せる。

 すみれが優しく、その踊りを一緒に踊って見せると、知里は目をキラキラさせてすみれの踊りを見る。

「わかった!」

 と嬉しそうに踊って確認する。

 すみれがその姿を見て頷きながら知里の頭を撫でる。


 園香のところにもゆいと真由が聞きに来る。

「園香先生、ここはこうでいいの?」

 園香もすみれがやっていたように踊ってみせると、

「わかった!」

 と笑顔で唯と真由が踊って見せる。

 こうして、すみれたちと一緒に指導をする中で、園香は何か今まで以上に子どもたちに踊りを教えることに喜びを感じられるようになってきた。

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