第352話 瑠々への出演依頼(一)

 翌日、朝早く園香そのかたち三人は宮崎美香バレエスタジオに向かう。稽古場に着くと、昨日、二階の教室で美香からレッスンを任されていた葉月はづきというバレエ教師が迎えてくれた。

「どうぞ、こちらへ、美香先生たちがお待ちです」

 美香先生たち……その言葉に園香たち三人は顔を見合わせた。葉月に案内されて応接に入ると、応接で美香たちが待っていた。

 美香、瑠々るるともう一人の女性。上品ながらカジュアルな服装、キリっとした雰囲気を身に纏ったその女性は瑠々るるのお母さんだ。

 以前、大阪に『ライモンダ』の公演を観に来た時、公演会場であるホールの客席入口で、園香たち三人は彼女を見たことがあった。その時、キビキビとした感じの彼女は瑠々るるの手を引いてホールに入って来た。そして、園香たち三人は、真美から彼女を紹介してもらった。彼女は瑠々るるを美香に預けて、すぐにホールを去って行った。


 女性が園香たちに微笑みながら言う。

「あの時は大変失礼しました。真美ちゃんから紹介されて、あなた方三人、いらっしゃいましたね、あやめさんや美織みおりさんや瑞希みずきさん、優一さんも、後、小さな女の子の親子」

ゆいちゃん親子です」

 園香が言葉を添える。

「本当にあの時は失礼致しました」

「いえいえ、あの時は、お忙しそうでしたね」

 真理子が微笑みながら言う。


 瑠々るるのお母さんが微笑みながら続ける。

「ところで、瑠々の公演出演の件ですが、よろしくお願いします」

そう言って瑠々るるのお母さんは、園香たちに深々と頭を下げた。

「あ、ありがとうございます」

 真理子のお礼の言葉に合わせ、すみれと園香も頭を下げる。

「昨日、先生から連絡をもらい、すぐに主人にも連絡して、幼稚園の先生にも言って、花村バレエのお稽古を優先させてもらいなさいと言われまして……幼稚園の園長先生は主人の親族の方なんです。いつも、いろいろ聞いて頂いていまして、今回は今から公演が終わるまで一ヵ月間、お休みをさせて頂くことにしました」

 瑠々るるのお母さんの言葉に、園香たち三人が驚いて顔を見合わせた。


 瑠々るるのお母さんが、真理子やすみれ、園香たちを見つめながら続ける。

「昨日、電話で無理を言って、一ヵ月間、瑠々るるを美香先生に預かって頂くようお願いしました」

 瑠々るるのお母さんは改めて美香に視線を向ける。

「美香先生、もう一度、改めて、瑠々るるをよろしくお願いします」

 頷きながら美香が言葉を続ける。

「ということで、一ヵ月間、瑠々るるを私に預けてくれるということに決まったんです」

「ええ!」

 園香たち三人が顔を見合わせて驚く。


「私もここのレッスンは他の先生に任せて、一ヵ月、花村バレエに行くから、ここのバレエ教室も春まで発表会はないから」

 園香たちはもう一度顔を見合わせて驚いた。

 美香はそこまで言って、一度、瑠々るるの方に目を向け、

瑠々るるも、それで、ええんやなあ。週末、お母さんが高知へ来てくれる約束や」

 瑠々るるが頷きながら、

「タンバリンとプウちゃん持って行けるんやったら行ったるで」

「持って行ってもええ。じゃあ、先生と一緒に行くで。幼稚園のクリスマス会は出られへんけど、ええな。後でプレゼントくれるから」

「うん」

 大きく頷く。


 そこまで言って、一息入れ、美香はもう一度、真理子たちに言う。

「瑠々の出演はOKや。ゲスト料なんかいらんわ。出演料払わないかんぐらいかもしれんからな」

 真理子が言葉をはさむように、

「お二人の旅費と宿泊費、お母さんが来られた時の旅費と宿泊費は出させて頂きます」

 と言うと、美香が微笑みながら、

「ありがとうございます。ところで、折角、出演させて頂くんやったら、今度の公演、関西からもいっぱいバレエ関係者が観に行くみたいやし、パンフレットにうち教室の広告出してくれますか?」

「え、それは全然」

 真理子が、一瞬見せた、動揺したような表情を園香とすみれは見逃さなかった。

 すみれが微笑みながらうつむき加減に首を振り、大きく頭を下げて、

「美香先生、ありがとうございます」

 と言った。園香と真理子も合わせて礼を言い頭を下げた。

 すみれが瑠々るるの方に微笑み。

瑠々るるちゃん、よろしくね」

 瑠々るるが微笑んで大きく頷く。


 園香も、もう一度、瑠々るるに微笑み。

瑠々るるちゃん、私からもよろしくね」

 と言うと瑠々るるが嬉しそうに大きく頷いた。

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