第347話 キッズクラスへの報告
さくら幼稚園から
その日は夕方、キッズクラスのレッスンがある。その後、続いて小学生高学年以上のレッスン。そして『くるみ割り人形』のリハーサルがある。
真理子と話をして、今日の『くるみ割り人形』のリハーサルの後、
その日も、いつものように皆が集中して練習した。
「園香ちゃん、ちょっといいかしら」
「はい」
すみれに呼ばれて慌てる園香。すみれのところに行くと、すみれがそこに知里を呼んだ。
「知里ちゃん。ちょっと、いいかな」
知里がすみれと園香のところにやって来た。他の子たちと少し離れたところで、すみれが知里に優しく話しかける。
「今日のお稽古が終わったところで、知里ちゃんのことを皆に伝えてもいいかな」
知里が微笑みながら頷く。すみれが知里に頷いて、その後、園香と一緒に、お母さんのところへ行く。
「お母さん、ちょっといいですか」
また、他のお母さんたちと少し離れてところで、先程、知里に言った内容を伝えると、お母さんも皆に報告してもらっていいと言ってくれた。
すみれが園香と一緒に真理子のところに行く。知里とお母さんに了承を得たことを伝え、レッスン後、真理子から知里の事を全員に伝えてもらうようお願いした。
◇◇◇◇◇◇
その日のリハーサル後、出演者全員を集めて、真理子から知里が家族の転勤で海外に行ってしまうことを伝えた。
そして、今度のホールでのリハーサルが、知里と一緒に踊れる最後のリハーサルになることも伝えた。
出演者全員が驚いた顔をした。キッズクラスの子たちも皆その話を理解して驚いて声を上げた。
唯と真由が泣き始めた。
その二人の姿を見て知里も泣きだした。
園香も、すみれも
美織が知里と唯、真由を抱きしめる。
「知里ちゃん、唯ちゃん、真由ちゃん、寂しいね。でも、後少し、最後まで皆で楽しく頑張ろう」
知里と唯、真由が泣きながら頷く。すみれと園香も知里たちのところに行き、三人を抱きしめる様にする。
園香は、この小さい子たちが、これほど悲しむとは思わなかった。この状態で明日からのレッスンを集中して受けられるのだろうかと思ったほどだった。
すみれが園香に微笑みながら、
「この子たちのことも見てあげてね。美織に任せるのではなく。園香ちゃん、あなたもこの小さな子たちを見守ってあげてね。あなたは『くるみ割り人形』の主役なんだから」
「はい」
すみれが園香に頷き微笑む。
「優しく見守ってあげて、優しく声を掛け続けてあげれば、彼女たちは大丈夫」
「はい」
頷く園香。
すみれは優しく、知里、唯、真由を抱きしめ、頭を撫で続ける。知里や唯、真由が少しずつ落ち着きを取り戻していくのが分かった。
園香も三人を抱きしめ、優しく頭を撫でてあげると、いつしか三人の表情に笑顔が戻ってきた。
園香が優しく、
「皆で素敵なホールリハーサルにしようね」
と言うと、唯が涙を
「うん、唯はねえ。知里ちゃんと楽しく踊るの。あと少しだけど知里ちゃんと、いっぱい楽しく踊るの……いっぱい楽しく踊るの」
「私も後少しの間だけど、皆と楽しく、いっぱい楽しく踊るの」
知里もそう言いながら微笑む。
「うん、うん、そうだね。いっぱい楽しく踊ろうね」
園香も三人を抱きしめて言いながら、もらい泣きしてしまった。
◇◇◇◇◇◇
そして、次の日から出演者全員、今まで以上に真剣な眼差しで練習に励むようになった。キッズクラスの子どもたちも、知里と一緒に練習ができる残された時間を、心から楽しみながら、集中した稽古をするようになった。
すみれが園香に「全員のすべての踊りをきちんと見てあげなさい」と優しく言葉を掛ける。
園香にはこの言葉を聞いた時から、今まで以上に、すみれが園香を気に掛けてくれていると感じ始めた。
それまでも、すみれは踊りに関してはいろいろなアドバイスをしてくれていたが、このところ普段の練習に対する姿勢や周りの出演者への気配りなどを事細かに教えてくれるようになった。
今までのすみれはいつも美織と一緒にいる印象が強かったが、この頃から園香の
すみれの言葉は園香の心に
そうして、毎日の稽古の中で出演者全員に気を配り稽古に臨んでいると、いつしかキッズクラスから小学生、中学生、高校生から大人クラスのレッスン生まで、皆が園香を頼りにするようになった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます