第341話 エキシビションの練習が始まって
エキシビションの演目が決まって、六人は毎日の練習の始まる前と全体の練習と『くるみ割り人形』の個別練習の後にエキシビションの練習をするようになった。
この『くるみ割り人形』の個別練習というのは、その日のリハーサルで気になった踊りを全体練習の後、個別に真理子やあやめ、すみれたちが見るというものだ。
他の生徒たちより早く稽古場に来て練習し、他の生徒より遅くまで練習する。こんなことは
最初は皆「唯ちゃん疲れるから帰りなさい」「明日また皆と同じ時間に来ようね」などと声を掛けていたが、それでも稽古場の隅にちょこんと座って静かに真剣に見ている唯を見るとお母さんに言われてやっているようではなく、自分の意志で見学しているのがわかった。お母さんもそれに付き合って見学しているのだが、すみれや
◇◇◇◇◇◇
エキシビションはやる以上は適当なものは見せられない。わざわざ時間を取って『くるみ割り人形』の本編の前にやるのだから、お客様に満足して頂けるものを見せなければ、やる意味がない。やる必要がない。
六人もそれに見合う経験と実績のあるダンサーたちだ。その意味は誰に言われなくても十分理解している。
六人のエキシビションのリハーサルには真理子やあやめ、北村、秋山はもちろん、園香も奈々も見学する。ここに美和子と
そして、小さな唯が真剣な表情で見学している。
園香を含め見学している者全員が、真美の『エスメラルダ』をきちんと見るのは初めてだった。最初のポーズから一気に見ている者を惹き付ける。その表現力が凄いと思ったが、すぐに、すみれと美織が真美のところに行き、踊りの指摘をしながら自分たちが踊って見せる。
真美が真剣な表情で、すみれの細かいポーズを再現する様に隣で踊る。
美織が真美とすみれの違いを分かるように、鏡に映っている二人の姿の違いのポイントを教える。
繊細でハイレベルな指導。園香や周りの者も息を呑んで見入る。
不意に、小さな唯が立ち上がり鏡を見て自分もポーズを取って確かめる。
その姿に、すみれや美織も驚いた表情をするが、更に驚いたことに、すみれが唯のところに行き、
「右手はここ。体を少しこう
と唯に教える。初めて『キャンディ』以外の踊りを直接すみれから教えてもらい真剣な表情で踊りを覚えようとする唯に周りの者も驚いた。
その後も、唯は稽古場の前で見学していたかと思うと、
そのうち、周りで見ていた園香も北村や秋山、あやめも、更には美和子や香保子まで踊ってみると。すみれたちは分け隔てなく皆に踊りのポイントや注意点を指摘しながら教えてくれた。レベルは違えど皆それがいかに貴重な経験かということを実感できた。
その日からというもの、噂が噂を呼び参加できる者は、この六人のエキシビションのリハーサルに参加するようになった。
佐和や
園香が少し驚いたのは、すみれが『グラン・パ・クラシック』を踊るとき、美織が厳しい表情で細かいところをチェックしながら進めていくことだ。
そして、時には、すみれ自ら真理子に指導を仰ぐ、真理子が細かい表現や踊りの細部を注意する。
すみれに注意する人がいることに驚いた。すみれの踊りに対して指摘できるところが凄いと思った。
しかし、考えてみれば、この中で彼女に指摘できるのは美織か真理子ぐらいしかいないとも思えた。
ふと思い返してみて、園香は真理子が『グラン・パ・クラシック』の指導をしている姿を初めて見た。
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