第340話 エキシビション 演目について(二)

 気が付くと真理子とあやめも稽古場に来ていた。

 そこへ、まだ、早い時間だったが、キッズクラスのゆいがやって来た。白いストローハットに薄いピンクのワンピース。美織みおりにそっくりの出で立ちだ。

「お は よ う ご ざ い ます」

 稽古場の入り口で元気に挨拶する唯に、皆が挨拶を返す。

「おはよう」「おはよう、あら、可愛い、美織先生と一緒だね」

 唯が笑顔で帽子に手を添える。

 美織が微笑んで、

「おはよう。唯ちゃん。早いわね。帽子お揃いだね」

 と言うと、唯が満面の笑みで頷く。


 エキシビションの演目について話が続く。すみれが瑞希みずきに、

「あなた何を踊る?」

 と聞くと少し考える様にして、

「何がいいかなあ。キトリですか?」

「ううん、どうしようね。一曲だけ踊るんだったら『ジゼル』の一幕のヴァリエーションなんかいいんじゃない。コンクールに出てるダンサーにとったら、あなたのイメージは『ジゼル』よね」

 瑞希も微笑みながら頷き、

「そうします」

 と言う。

 唯がピンクの可愛らしいレオタードに着替えて、皆の輪にちょこんと座る。皆が唯に微笑む。

 すみれが話を続ける。

「美織は何を踊る?」

「ううん、そうねえ、何にしようかなあ」

 瑞希が横から、

「これ、決まらないやつだ」

と言うと、唯が手をあげて、

「美織先生、オデット姫」

 と言った。全員の目線が唯に集まり、ビクッとして肩をすくめるように周りを見回す唯。

 すみれが微笑み、

「いいじゃない。オデット。決まり」

 美織が唯の頭を撫でて微笑む。

「ありがとう。唯ちゃん」

 と声を掛け。唯が笑顔に戻る。園香そのかは心の中で、ここに来て、ついに美織のオデットがなまで見れると嬉しい気持ちになった。

「後は、優一だ。優一、何踊る?」

「そうだなあ。この前、踊った『バヤデルカ』のソロルか『海賊』とか『ドンキ』とか」

 瑞希が少し呆れた顔をして、

「これも決まらないやつだ。唯ちゃんに決めてもらいますか? 唯ちゃん、優一先生は何がいいと思う?」

 と言うと、唯が笑顔で、

「王子様」

 と言う、皆が微笑んで、

「王子様って、バレエにはいっぱいいるよ」

 と優しく言うと、

「王子様は眠っているお姫様を目覚めさせに来るの」

 と唯が言う。

 すみれがうつむき加減に微笑んで優一の顔を見ながら、

「……だって、どう? 私はいいと思うけど」

「いいよ。唯ちゃん」

 優一が唯の頭を撫でる。

 一美かずみが少し驚いた表情で、

「優一さん『眠れる森の美女』のデジレ王子を踊るんですか?」

 頷く優一に一美が、

「勉強させて頂きます」

 と羨望の眼差しを送った。


 バレエ『眠れる森の美女』のデジレは、数ある王子役の中でも最高の王子といわれる演目だ。ヴァリエーションのレベルも最高難度の難しさだ。技術と表現力、気品、あらゆるものが必要とされるヴァリエーションだ。

 唯の思わぬ一言で優一はデジレのヴァリエーションを踊ることに決まった。


 演目の順番について、すみれが提案した。

「一曲目は真美ちゃんの『エスメラルダ』で、二曲目は一美君の『ジークフリート』三曲目は瑞希の『ジゼル』四曲目が優一の『デジレ』五曲目が美織の『オデット』最後が私の『グランパ』でどう?」


 唯が皆の顔を見回して、

「唯は踊らないの?」

 と聞くので、美織が優しく、

「これは、今度、新しく花村バレエの来た先生たちだけで踊るの、唯ちゃんたち皆は応援してくれるかな」

 と言うと、唯が笑顔で手をあげて、

「はーい、唯は先生たちの応援するの」

 と笑顔で言う。周りにいた全員にも笑顔が広がり、小さな唯の言葉に気持ちが引き締まる気がした。


 すみれの提案に関しては全員賛成ということで、エキシビションの演目と順番が決まった。真理子たちも、それでいいということでエキシビションの内容は決定した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る