第339話 エキシビション 演目について(一)

 日曜日の朝、エキシビションに出演することになった六人が他の生徒よりも一足先に稽古場にやって来た。園香そのか、北村、秋山もその時間には稽古場に来ていた。

 すみれが五人に話す。

「曲と順番なんだけど」

 美織みおりがすかさず。

「すみれさんはトリで『グラン・パ・クラシック』でしょ」

 と言う。それには全員が賛成した。すみれも少し苦笑いする様に、

「まあ、それを期待されてるんだったら踊るけど、誰かトリを取りたい人いる?」

 すみれに「トリを取りたい人がいるか」と聞かれて「私がトリを取ります」などと言えるわけもなく、誰もすみれの言葉に反対しない。そして、すみれが続ける。

「一応、確認してあるんだけど、エキシビションから本編の『くるみ』まではナレーションで繋げてくれるから『くるみ』までの時間の心配はしなくていいみたい」

真美が、どういうことなのだろう、という表情をしたのに気が付いて、すみれが言葉を続ける。

「要するにこういうことよ。本編の『くるみ』の一番最初の出演者は優一よ。ドロッセルマイヤーがクリスマスプレゼントを用意している場面から入るでしょ。だけど、エキシビションと『くるみ』の間のところは十分に時間を取ってくれるから、エキシビションの最後が優一でも大丈夫ってこと」

「え? 優一さんドロッセルマイヤー? 王子じゃないんですか?」

 一美かずみが驚いた顔で周りの皆を見回した。

「何やねん、このタイミングで」

 真美が睨むように一美を見る。

「いや、僕は優一さんが王子だと思ってたから……」

「……」

 皆が一美を見つめる。一美が呟くように、

「王子は誰?」

河合恵人かわいけいと

 と全員が返す。

「え! 恵人けいと君なの。すごいなあ」

 驚く一美の言葉に被せる様に、すみれが言う。

「恵人は一美君のライバルでしょう。あなたエキシビションで『白鳥の湖』の『ジークフリート』のヴァリエーション踊ったら? コンクールでよく踊っていたわよね」

 瑞希みずきが隣から、

「そうだ、そうだ」

 という。一美は恵人の王子役という状況に、まだ、頭がついて行ってない様子だったが、エキシビションのジークフリートについては、それでいいということで話がまとまった。衣装もジークフリートの衣装なら、実家に自分の衣装があるから大丈夫ということだった。

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