第334話 新しい出演者

「誰?」

 真美がその男性に向かって言う。

「おはようございます」

 男性は丁寧に挨拶する。一瞬、すみれや美織みおり瑞希みずきの間に沈黙が広がり、その後「ワハハハハ」と大きな笑いの渦が広がった。

「どうしちゃったの?」

 美織が男性に声を掛ける。

 男性は多岐川一美たきがわかずみだった。文化イベントの時はドレッドヘアにピアスという出で立ちだったが、髪型はすっかりストレートで服装も、どこか育ちのいい青年という感じだ。

 真美が一美かずみに、

「今日は面接でも受けに来たんかい」

 と笑いながら言う。

「いや、一応、僕も学生なんで、イベントが終わったら、普通の髪型に戻したんだ」

 美織が微笑みながら、

「なかなかいいよ。前の多岐川君じゃない。バレエする気になったの?」

「え? バレエする気になったの? はないでしょう、皆さんが、一度、ここに寄ってみたらって言うから来たんですよ」

 すみれも微笑みながら、

「まあまあ、ちょっと、あれから、少ししか経ってないけど、こっちにも色々あってね、丁度、多岐川君に相談したいことがあったの」

「え? 相談ですか」

 多岐川は何を相談されるのかと思いながら、真理子やあやめ、北川や秋山にも挨拶する。真理子やあやめからも、その変わりようを笑われていた。


 すみれが、多岐川に話し掛ける。

「あなた、今日は一応、久し振りにレッスンも受けられるように準備して来たらって声掛けてあったけど、どう? レッスンする準備はしてきてる?」

「は、はい」

 瑞希がすかさず、

「体験レッスンだ」

 と言う。

「はあ……いいんですか?」

 真理子が、

「今日レッスン受けるなら体験レッスンでいいわよ」

 と言う。

 すみれが微笑みながら一美に言う。

「体験レッスンでいいんだって。あなたの状態も見たいから」

「え、どういうことですか、いきなりテストですか?」

「ええ、テストよ。合格したらバレエに復帰してもいいのよ」

 横から言葉を添える美織に、驚いた表情をする一美。

「ええ、なんか、もう、僕が復帰すること前提で、上手く踊れなかったら復帰できないみたいな感じですね……まあ、いろいろ落ち着いてきたんで、もし、できるならバレエやりたいとは思ってたんですけど……」

 瑞希がすかさず、

「そうでしょう。そうだと思った」

 と調子よく言葉を添える。


 園香や真美も、半ば強引に公演に引き込もうとする、すみれや美織、瑞希の言葉に呆気あっけに取られる。


 結局、一美は、その日のレッスンにいきなり参加することになった。小学生高学年から大人クラスまでのレッスン生が入るクラスだ。

 一美が稽古着に着替えてストレッチを始める。一美の周りにもう一度、すみれや美織、優一がやって来た。

 園香や真美もストレッチの輪に入る。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る