第328話 秋の文化イベント(十二)『ドン・キホーテ』(三)
「
「うん、見たよ」
「凄かったんでしょうね。そのときのコンクール」
「凄かったよ。真美ちゃんがタンバリンの『エスメラルダ』で、瑞希さんが『ジゼル』第一幕の『ジゼル』のヴァリエーション。瑞希さんのジゼルは完璧だった」
「え」
いつか初めて真美が佐和と会って、佐和が真美の踊りの方が好きと言ったとき、その言葉を真美の口から聞いた『瑞希さんの『ジゼル』のヴァリエーションは完璧だった』と、その時、真美もそう言った。
真美が踊り終わって舞台袖に帰ってくると、佐和が真美に駆け寄り「真美さん、凄かったです」と言って抱きつく。嬉しそうな表情を見せる真美。
美和子や
真美が多岐川一美の方に視線を向け、
「どや、まあ、こんなもんやろ」
と言いながら微笑む。
「ハハ、そんなもんだろ。相変わらず、すごいな」
と言って一美が微笑む。園香は改めて真美の凄さを見せつけられた気がした。
◇◇◇◇◇◇
舞台は、すみれの『メルセデス』のヴァリエーション。
曲は妖艶さとフラメンコの雰囲気を感じさせる力強くも、どこか哀愁を感じさせる独特な雰囲気から始まる。終盤はテンポが変わりリズミカルで華やかな曲に変わっていきクライマックスは情熱的に終わる。
会場は一瞬にして、すみれが踊る『メルセデス』の世界に包まれた。
こういう一種独特な世界観を持った曲を、すみれは見事に表現する。
彼女が、バレエ『白鳥の湖』で見せた『ルスカヤ』もそうであったが、その踊りを踊る人や民族の生き様や背景、そこに生きる人でなければ表現できないような深いものを、まるで、その民族の女性であるかの如く表現する。
これは、園香も、今まで、自分自身も含め、すみれがいろいろなダンサー、生徒たちに踊りを教える中で、そこまで追求するところを見たことがない部分だった。
踊りは満場の観客を惹き付ける表現力。深く濃い美しい赤い衣装。フラメンコのダンサーが身に纏うファルダという衣装。スカートにはボランテというフリルが幾重にも重なり美しい。足首までの長いスカートを見事にひらめかせながら、卓越した体の柔軟性で見る者のを魅了する。
体を後ろに反らせると、そのまま頭が床につくのではないかと思わせるほどの柔らかさを見せる。それでも、まったくバランスを崩すような不安定さはない。何という体幹の強さなのだろう。この身体能力の高さは
踊りの事は何もわからない人にも、人間の想像できる姿勢として、この体勢で体がふらつかないことが驚きである。
その柔軟性で見せる一つ一つの振り、ポーズに、彼女が踊っている途中でも、自然に拍手と感嘆の声が客席から聞こえる。
踊り終わると客席から大きな拍手が鳴り響いた。
◇◇◇◇◇◇
続けて、
美織が白いクラシックチュチュで踊るこの踊りは美しく、どこか幻想的で、まるで夢の世界に
実際、バレエ『ドン・キホーテ』の中でも、夢の中の一場面として踊られる踊りだ。この『ドルシネア』と『キューピッド』踊りは、バレエ『ドン・キホーテ』で、
美しく気品に満ちた美織の『ドルシネア』に観客は皆、心を奪われたように見入っていた。この踊りも満場の拍手に包まれた。
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