第327話 秋の文化イベント(十一)『ドン・キホーテ』(二)
舞台では北村、秋山と優一が『バジルとキトリの友人』のヴァリエーションを踊る。華やかな三人の踊りは舞台をいっぱいに使い、その熱が観客席にいるお客さんにも伝わる。臨場感が凄い。まるで見ているお客さんがバルセロナの広場でバジルとキトリの友人を見ているような気持ちにさせる。客席が一気に盛り上がる。
「すごいな、
三人の踊りが終わって客席に拍手が渦巻く。
その盛り上がりの熱を冷ますことなく、そのまま、その世界の中にキトリ役の真美が飛び込んでいく。
バレエ『ドン・キホーテ』の全幕を思わせるキトリの登場に満場のお客さんたちも目を奪われる。舞台の上から観客を惹きこむような目線で舞台を大きく一周し、舞台の
圧倒的なテクニックと表現力に会場に集まった観客が静まり返った。本物を感じさせる真美のキトリは、初めてバレエを観るお客さんの目にも彼女のレベルが規格外だということがわかった。
すみれと
「やっぱり、すごいわね。彼女」
すみれが微笑みながら言う言葉に、美織も、
「本当、なに? この空気を味方に付けるような、この感じは」
と言いながら
瑞希が微笑みながら真美の踊りを見ている。この踊りを見て彼女はどう思ったのだろうと、園香は少し心配するような表情で瑞希に視線を向ける。
「あの時と一緒だな」
「え?」
と問い掛けるように言う園香に、ドレッドヘアの一美が微笑み、
「河合瑞希さんの表情。瑞希さんが鹿島真美ちゃんに勝ってコンクールで一位を取った時、あの時の出番前の表情と一緒だ」
「瑞希さん、この真美ちゃんの踊りと客席の盛り上がりを見ても、負けるなんて思ってないんだ」
「なに言ってんの。金平糖の精さん。河合瑞希だよ。青山青葉バレエ団のプリンシパルだよ。もしかして、まだ、河合瑞希さんの本気の踊りを見たことがないの?」
そう言って一美が微笑む。
すみれと美織も顔を見合わせて微笑んだ。
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