第326話 秋の文化イベント(十)『ドン・キホーテ』(一)

 司会者の男性が次の演目を紹介してくれた。

「それでは引き続き、花村バレエさんで『ドン・キホーテ』です」


 理央りおが舞台の中央に出て行く。キューピッドの衣装が可愛らしい。白いジョーゼットの衣装に、くるくるの金髪のかつら。舞台のそでゆいと真由が嬉しそうに見ている。

 理央が舞台のそでから中央奥まで、足を細かく小走りに走って出てくる。舞台中央で細かいパデシャをして立ち位置に付く。

『キューピッド』のヴァリエーションの軽快な曲が流れ始める。後ろアチチュードから、その足はパッセを通してドゥバン。その後、五番のドゥミ・プリエに収める

 普段、すみれから注意される体の向き足を上げる方向。腕の位置。あらゆるところを意識して丁寧に踊る。

 アチチュード、パッセ、ドゥバン、ドゥミ・プリエの振りを五回繰り返した後、体を斜め後ろに向けてアチチュードからシュスにまとめる。

 斜め前に歩いて、ポワントでバランスを取って、アチチュード・クロワゼ・ドゥバンで音と一緒に止まる。そのポーズで無音の中、顔だけを正面に切る。その瞬間、客席から拍手が起こる。軽いグラン・パデシャからパデシャと続ける。

 余裕のある安定した踊りに観客席から手拍子が起こり始めた。その中で舞台下前しもまえから上奥かみおくにピケ・アンデダンで移動する。

 舞台の中央まで、右足をエファセで体の前に置き左足プリエ。左足で立つのと同時に右足をアチチュード・クロワゼ・ドゥバン、その向きに軽くグラン・パデシャ。着地と同時に細かく移動し、左足をエファセで体の前に置き右足プリエ。右足で立つのと同時に左足をアチチュード・クロワゼ・ドゥバン、その向きに軽くグラン・パデシャという動きを繰り返す。体の向きが正確にポジションをとらえる。

 園香の口からも上手いとしか言葉が出てこない。真美も正確で丁寧な理央の踊りを食い入るように見つめている。

 アッサンブレも美しい。最後のアチチュード・クロワゼ・ドゥバンも一瞬、時が止まったかのような安定したポーズ。

 そして、軽いグラン・パデシャからパデシャ。

 最後のポーズ。


 公園を埋め尽くす観客から大きな拍手が巻き起こった。

 舞台のそでで見ていた次の出演者である多岐川一美たきがわかずみが呟く。

「上手いな。さっきの『バヤデルカ』の子たちも上手かったけど、この子は別格だな。ポジションが正確で、きちんと音とポーズ、ポジションのタイミングが合ってる」

「すみれさんが一ヵ月、付きっ切りで教えてたからなあ」

 真美の言葉に一美が驚いた。

「キューピッドの子の素質があったにせよ、たった一ヵ月で、ここまで仕上げてくるって、やっぱり、すみれさんって凄い人なんだな」

「そうやな。まあ、この後も凄いバレリーナの私が踊るから、しっかり見ときや」

「ああ、ハハ、相変わらずだな。さすが宮崎美香先生とこのプリンシパルだ。かなわないなあ」

 一美の言葉に真美が微笑みながら舞台そでに歩いて行く。

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