第322話 秋の文化イベント(六)『ラ・バヤデール』(三)

ソロルのヴァリエーション

久宝優一くぼうゆういち


 予定外の演目だった。これには園香そのかや真美も驚いた。

 アレグロペザンテ。華やかな曲とともに一歩足を踏み出しランベルセ。舞台全体を大きく円を描くように移動しながら、軽いグリッサードから体の向きを進行方向に対し反転させるようにして、高いジャンプでカブリオール・デリエール(後ろカブリオール)そして、着地と同時に体の向きを反転させて進行方向に軽いグリッサードから軽くグラン・パ・デ・シャ。

 続けてもう一度、軽いグリッサードからカブリオール・デリエール、グリッサード、グラン・パ・デ・シャと二回繰り返した後、軽いグリッサードからカブリオール・デリエールをしてポーズ。

 カブリオールのジャンプが高い。舞台の両そで近くに立っているコールドのダンサーたちは初めて、間近で踊る優一が、まるで立っている自分たちの頭の上を飛び越していくのではないかと思うほど高いジャンプでカブリオールをするのを見て興奮する。

 広い観客席からも「おお!」と、どよめきの声が広がり踊りの途中でも大きな拍手が巻き起こる。舞台袖ぶたいそでで見ていた園香も真美も優一の踊りに圧倒された。二人も、もちろんこの優一の踊るソロルのヴァリエーションは何度かテレビやビデオ映像で見たことがあった。まさか、ここで、なまで彼のこの踊りが見れるとは思ってもいなかった。

 優一は続けて舞台中央で軽やかなバランセから安定したアラセゴンドターンに入る。足を巻き込むようにアチチュードからポーズ。一旦、姿勢を整え美しいピルエット。

 そして、最後は舞台全体を円を描くようにトゥール・ド・ラン(バレル・ロール・ターンともいう)で大きくジャンプする。そして、最後はファイブ・フォーティで締めくくりポーズを取る。

 大技の連続で観客席は拍手喝采が巻き起こった。

 舞台周りで見ていた、ここまでの出演者たちも大きな拍手を送った。


 優一は舞台のすぐ下で見ていた次の出演者であるストリートダンスチームのリーダーである男性と目が合った。そのドレッドヘアにピアスの男性は優一と目が合うと少し微笑むような表情で優一に会釈した様に見えた。

 優一が少し驚いたような表情でその男性を見たことに園香は気が付いた。


――――――

〇カブリオール

カブリオール前後左右ある。カブリオールは片足を膝を伸ばしたまま振り上げてジャンプし、もう一方の床を踏み切る足も膝を伸ばした状態にして、空中で先に振り上げた足に合わせるように打ちつける。先に上げた足は膝を伸ばしたままキープし、床を踏み切った方の足で着地する。

先に振り上げる足を前に上げるジャンプをカブリオール・ドゥバン。

先に振り上げる足を後ろに上げるジャンプをカブリオール・デリエール。

先に振り上げる足を横に上げるジャンプをカブリオール・ア・ラ・セゴンド。


〇グラン・パ・デ・シャ

ジャンプの一種、前に上げる足を膝を曲げた状態からまっすぐ伸ばすように振り上げる。後ろの踏み切る足は後ろにまっすぐ伸ばす。空中では両足が前後百八十度になるように開く。


〇トゥール・ド・ラン(バレル・ロール・ターン)

舞台を大きく円を描きながらジャンプする跳躍の一つ。前に振り上げる足は膝を伸ばして振り上げる。後ろの足はアチチュード(膝を曲げた状態)でジャンプする。この時、体は舞台で移動する円軌道の中央方向にやや傾けた状態で連続ジャンプする。


〇ファイブ・フォーティ

空中で一回転半。五百四十度回転する。

ジュテ・アントゥルナン(空中で一回転するジャンプ)では、右回転の場合、進行方向に体を一回転させながら、右足を振り上げて右足で着地する。

ファイブ・フォーティで右回転の場合、体を一回転させた後、右足を着地せず空中に保ったまま、左足で右足を越えるようにして左足で着地する。この時、体がもう半回転するため一回転半、五百四十度の回転となる。

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