第320話 秋の文化イベント(四)『ラ・バヤデール』(一)

 バレエ『ラ・バヤデール』『かげの場』の曲が流れ始める。美しい曲とともに佐野恵梨香を先頭にコール・ド・バレエ(群舞)のダンサーたちが一人ずつ舞台に登場する。真っ白なクラシックチュチュに白いヴェール。お団子にした髪から左右両腕に沿うように手先まで、真っ白で軽く薄いヴェールを付けて踊る。


 ここまで、よさこいの迫力、ジャズダンスのスタイリッシュなカッコよさ、日本舞踊の華やかであでやかな踊りと種類は違えど、様々な形で舞台を盛り上げるパフォーマンスが続いた。

 その舞台を一転させるがごとく、全員が整然と美しい踊りを見せる『バヤデール』の群舞。

 この一曲で舞台は神秘的な白一色の世界に変貌した。

 それまで盛り上がり熱狂していた会場の雰囲気がガラッと変わった。客席全体が息を呑んで『かげの場』のコールドに吸い込まれる。


 舞台のそでから、すみれと美織みおりが見つめる。舞台の下から山野美佐子、詩保。今日の舞台に出演しない山野バレエの生徒たち、花村バレエの関係者。

そればかりではない、橋野亜紀バレエスタジオの橋野亜紀、葉子と橋野バレエの生徒たち他、市内外、県内のバレエ関係者の顔があちらこちらに見えた。その誰もが食い入るように見つめている。


 よさこいの踊り子、ジャズダンサー、日舞にちぶの出演者たち、バレエ関係者以外の団体も我を忘れるように見入っている。

 次の出演者であるストリートダンサーたちも毛並みはまったく異なるが、興味津々という感じで舞台を見上げている。

 ヒップホップ、ブレイクダンスを踊るダンスチームのリーダーらしい男性がじっと見つめている。ドレッドヘア、耳にピアスをしたラフな服装の男性。その周りを、いかにもストリートダンサーという感じの男女が取り囲むように集まって舞台に視線を向けている。

 一見するとコワい印象の彼らのなかで、リーダーらしい男性が真剣に『バヤデルカ』のコールド(群舞)を見ている。その姿に、舞台のそでから客席を見ていた園香そのかは、やはり美しいものは誰の心もつかむものなんだなと少し嬉しい気持ちになった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る